全業種!職人内製化への圧巻の取り組み。

平成30年9月27日 曇りのち晴れ

九州へ。

今日は人生初めての九州佐賀県、磁器の有田焼で有名な有田町に来ています。茶の湯の世界では茶碗は「一楽二萩三唐津(楽焼、萩焼、唐津焼)」と言われますが、日本三大陶磁器といえば美濃焼・瀬戸焼・有田焼の三種類になるらしく、有田町は江戸時代の前から続く伝統的なモノづくりの街との事。モノづくりに従事している職人の端くれの私としてはちょっとした聖地巡礼の気分になりながら神戸から6時間かけて有田の駅に降り立ちました。有田町に来た目的はお気に入りの磁器の茶碗を探すため、では無く、先月フィナーレを迎えた鹿児島での職人起業塾にはるばる参加して下さっていた企業への訪問で、年間70棟もの新築工事とリフォームを行われているその施工の全てを自社の社員職人で行う、完全内製化に取り組まれている朝日I&Rワークス社の取り組みを見学させてもらうのと、職人内製化に取り組むにあたり、神戸までわざわざ私の話を聴きに来られ、キーマンが半年間、鹿児島での職人起業塾に参加された、「その後」の進捗を聴かせていただくのが目的です。一応、柿右衛門窯の窯元巡りも押さえておきましたが、、(^_^;)

「分かっている、でも動けない」の突破口。

建設、建築業界では誰もがこれから本格化する圧倒的な職人不足に危機感を感じており、今のうちに何かしらの手を打たないといくら工事を受注しても施工できずに売り上げが上がらなくなることに気づいています。しかし、職人の採用、育成に本気で取り組む会社は(増えては来ましたが)全体から見るとまだまだ稀有な存在で、「分かっちゃいるけど何もしていない」という工務店経営者が殆どです。そんな中にあって、120億円もの売上高を誇る会社が、全業種の職人全てを社員化し、次世代の若者を育てる取り組みをスタートさせると言うのは刮目すべき事例で、当然、今まで通りのマネジメントの延長線では到底できない一大事業です。そのスタートに当たってキーマンに職人起業塾で学んでもらい、旧態依然の現場マネジメントを改革する足がかりにすると言って私たちの研修事業の受講を選んでもらえた事は本当に光栄ですし、私としては何としてもこの全国でも類を見ない革新的な取り組みを成功させてもらいたいと思っています。また、これが成功裏に着地すれば、全国の建築業界における職人の雇用形態を大きく変える突破口になると確信もしています。

職人の働き方改革は雇用改革から。

私たちすみれでは10数年前から売り上げ拡大路線に背を向けて、自社職人が施工できる範囲しか工事を受注しないスタイルを選択し、同時に若手の職人育成に注力して来ました。それはモノづくりを生業とする会社は施工力を持たずに事業が成り立たないという、ごく当たり前の原理に沿っての当たり前の選択でしたが、全く何にも出来ない新卒の若者を採用し、教育するのは随分とコストがかかりますし、もっと言えば、若者が安心して正社員の職人として就職できる労働環境の整備には更にその何倍もの費用をかけなければなりません。そもそも、職人には正社員になって現場作業以外の顧客対応や現場管理、コスト管理等、あれこれの業務を行うのを良しと思う人が少ない中、「意識を変えろ!」と檄を飛ばして、現場作業、技術以外の教育、マーケティング理論のレクチャーやコミュニケーションスキル向上の研修を行うことによってその仕組みを作って来ました。その根本には自分自身が職人として働いていた時に、天気や体調、怪我などで稼ぎが大きく変動し、いつ稼げなくなるかわからない、この先、家族をちゃんと養えるのか?と常に不安に駆られていた経験があり、こんな不安定な職業に若者が従事する訳が無いと実感していたからに他なりません。今までの職人の働き方のままでは、誰も職人になどならないと確信していたからです。職人不足問題の解決には先ずは雇用形態を他業種に引けを取らないくらいまで引き上げる事が絶対的に必要だと考え職人の正規雇用への転換を行いました。

未来を見据えた選択。

職人の正規雇用を行ない、若者が働きやすい労働環境への整備は、職人不足問題解決の為にまず始めに取り組むべき事ではありますが、世の殆どの工務店が元々雇用していた職人を外注扱いの不正規雇用に切り替えて来たこれまでの流れを鑑みるとそんなに簡単な事ではありません。工事案件を繋いで売り上げを上げる工務店業では繁閑に関わらず職人を抱えるのは人材のリスクになり、ずっと継続的に受注が取れる仕組みができている前提がなければ社員職人の雇用はままなりません。私が職人育成とマーケティングは一体でなければならないと言い続けている理由ですが、上述の朝日I&Rワークス社は安定した受注の仕組みが既に出来上がっており、また、不動産事業を絡めて自社での開発や分譲事業などの造注工事にも積極的に取り組まれ、工事量の確保という視点では既に卓越した結果を残されておられます。その意味では職人の内製化に取り組む下地が整っていたと言えなくもないですが、そのような事業所が100年企業を目指す為には職人の育成が避けられないと本腰を入れて4000坪の土地と1000坪のヤードを購入され、鉄筋の加工から木材の刻み、板金の加工等、その施工まで全て自社の社員で行うと莫大な先行投資に踏み切られたのは本当に凄いと思いますし、その構想を聞いているだけで私までワクワクしてしまいました。まさに、未来を見据えた選択をされたと思います。

職人の育成に必要なのはキャリアパス。

今日、念願叶って有田にあるそのヤードと事務所を訪れる事が出来て、圧巻の計画と構想を聞かせてもらいました。ただ、(多分)日本全国でも誰も出来ていない全業種内製化を行うのに簡単なわけもなく、様々な顕在化している問題点とこれから表面化してくるであろう潜在的な問題について聞かせてもらい、予防策について話し合いました。私の持論は職人会社が持続継続し続ける為には職人のキャリアパスが必要であり、どのようなスキルを身につければどのような待遇になり、自分の思い描く人生を歩めるかを示すべきであり、その選択の一つに独立起業もあって然るべしだと思っています。ただ、私個人的には、これからマーケットが縮小し、あらゆる情報が氾濫する時代にはある程度、施工や保証、アフターサービスができるエビデンス(想いではなく事実)を示す事が賢くなったユーザーから信頼を得るには必要となり、どんどん大手の寡占化が進むと考えており、工務店、リフォーム会社としての独立起業はあまりオススメはしていません。下請け職人としてメシを食うには困らない程度なら簡単でしょうが、起業当初の私のように24時間365日働きづめになってしまっては、豊かな暮らしとは縁遠い本末転倒になり兼ねません。その辺りの少し考えれば分かる未来を新たに社員となって入られる新しい職人さん達に如何に理解してもらい、未来を見せることによって同じ目的意識を共有するかにかかっていると、アドバイスをしておきました。

神戸に行って目の色が変わった。

そんな、職人を社員化した工事会社の運営、仕組みづくりについて様々な意見交換をしたり、職人起業塾に参加頂いたキーマン達のその後の近況を伺ったりした中で私が心から嬉しく感じたのは、「高橋さんに会いに(大工棟梁の)部長と神戸に神戸に行き、職人起業塾に参加させて貰わなかったらこの度の職人内製化の取り組みは全く出来ていなかったと思う、部長の意識、言動がガラッと変わったおかげで、なんとか先が見えました。」との山下社長からの言葉です。正直、初めて神戸に来られた時はプライドの高い、昔ながらの考えの狭い思考の大工然としていると感じた宮崎部長が鹿児島での講座に通われているうちに大きな変化を遂げていたのは私も感じましたが、それが実際の事業の中で大きな成果に結びつけられておられると聞けたのは本当に嬉しいの一言です。

全国で講演や研修を行っている中で、工務店経営者からよく「職人の内製化に取り組みたいが、何から手をつけていいかわからない」との声を聞きます。もちろん、前述の環境整備から始める若者の雇用と教育がポイントではありますが、取っ掛かりはやはり、信頼できる大工を仲間に引き込んで、現場作業だけではなく、現場マネジメント、若手育成を共に行うとコミットメントをもらう事が必要で、職人の育成は現場実務を詳細まで知らない経営者だけでは厳しいと申し上げています。逆に、職人上がりの経営者は職人の意識改革の難しさをよく知っており、キーマンを作る事を含めて、職人の内製化を諦められる方が少なくありません。どちらにしても、ですが、職人の意識改革をまず行う事で今後の職人不足に対する備えの突破口は見えてきます。何とかしたい、でも踏み出せていない、と思われる方はお気軽に私(高橋)までお気軽にお声がけください!(笑)

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