令和2年4月11日 晴れ時々曇り
ギャップ。
非常事態宣言が発出されて初めての週末、神戸の西の果てに拠点を構える私たち株式会社四方継の本社近く、伊川河川敷の千本桜は満開の峠を越して風が吹くたびひらひらと桜吹雪を舞わせています。春爛漫のウキウキしてしまう風景と裏腹のコロナの不安に重たく沈んだ今の世相はそのギャップの大きさゆえに何かを指し示しているように感じてなりません。この世はすべからく表裏一体、禍福糾える縄のごとく。良いことと悪いことが混在しているのが習わしで、降り止まない雨もなければ、朝日が登ってこない夜もない、腐らず恐れず、前を向けと教えてくれているのでしょうか。
逆転の時代。
世界を恐怖のるつぼに叩き込んだこのたびの新型コロナウィルスによる感染症の拡大によって、ここ最近、強く感じさせられるのはこれまでの価値観がガラッとひっくり返ったと言うことです。今まで良きこととして推奨されてきたことが悪になり、忌み嫌われていたことが良き事として推奨されている世の中になりました。誰しもが価値観の転換を迫られ、違和感を覚えながらも必死に適応しようと努力しているように思います。もちろん、私自身も旧態以前の意識のままでは世の中の流れから取り残される、情報を集め、変化に適応せねばと大いに危機感を持っています。
おきはい。
衝撃的なニュースは数々ありますが、私が1番大きな転換だと感じたのは「おきはい」の推奨と受容です。置き配とは宅配業者が受け主と対面して荷物を届けずに玄関先に置きっぱなしで配達をすることで、これをすると不在時の再配達の手間がなくなり、運送業者は無駄なく予定通りに業務を進めることができます。実は昔からこの手法はあったのですが、荷物がなくなるトラブルが発生するリスクもあり、運送業界ではタブーとされてきました。それでも繁忙期になって集配が追いつかなくなるとつい置き配をするドライバーが後を立たず、厳しく罰せられたのが今では消費者側がむしろそれを望んでおり、宅配業者でも推奨していると言うニュースは本当に驚きです。そして、この価値転換はコロナが収まった後も定着することになると思うのです。
コミュニケーションを回避
2つ目は対面コミニケーションに対する認識です。人と人とがつながって世の中が成り立っているのは従前でありますが、この数十年間、コミニケーションほど重要視されてきたものはないと思います。心理学者のアドラーが「人が抱えるあらゆる問題は人間関係にある」と人間社会の真理をシンプルに言い切り、明らかにしたのはつとに有名ですが、近年、ビジネスもプライベートも含めてあらゆる問題解決の起点にコミニケーションが据え置かれ、しかもできるだけ丁寧で濃密なコミニケーションをとることが是とされ、推奨されてきたにもかかわらず、感染症蔓延を防ぐ非常事態とはいえ、人と人の接触を極力止める事が美徳とされる今の時代の転換は衝撃的と言わざるをえません。
大航海時代以来の大転換。
その他にも、組織の団結を体現してきた団体行動は悪になったり、少子化の煽りであらゆる企業が人材確保に血道をあげていたにもかかわらず、採用内定した学生を邪魔者扱いして内定を取りやめる企業が続出したり、成長産業だと認識されて、国策にもなっていたインバウンドに特化したビジネスモデルの脆弱性が明らかになったり、人が集まり、商売に向いていると思われていた街中は閑散となり、郊外の方が非常時に商売への影響が少ない事が明らかになったりと、ありとあらゆるところで逆転現象が起こっています。そんな中でも最も大きなパラダイムシフトが起こっているのはグローバル化への拒絶ではないでしょうか。日本だけではなく実質世界中が鎖国状態になっている現実はイギリス、スペインが植民地を求めて世界の海に乗り出した大航海時代以来の大転換です。
鎖国時代。
これまで世界中の国境が開かれ、安全にどこにでも行けるようになったのは人類の進化であり、グローバル化が国際社会の発展の辿り着くべき先だと信じられてきました。EUがヨーロッパを統合して貨幣を統一し、国境をなくしたのは人類の理想を体現する大きな1歩だと言われてきました。私も二度と戦争が起こらない世の中にするには国境を無くすことが最も有効な手段であり、それこそが国際社会における成熟だと信じていました。しかし、それが果たして本当に良いことだったのかと今まさに問われているのだと思います。そもそも、感染症と言うのは風土病であり、今回のウイルス感染も元は中国の武漢だけに限定された問題でした。それが世界がカップリングして情報も人の往来も自由になっていたからこそ、瞬く間に世界中に感染が拡大したしまったのです。100年前なら起こり得なかった脅威が現実のものとなりました。
アフターコロナと鎖国政策。
新型コロナウイルスによる感染拡大が収束した後、何事も無かったかの様に世界がコロナ以前の価値観、考え方に戻るのは考えにくいし、SARSやMARS、スペイン風邪、古くはペスト等、人類がこれまで絶え間なくウイルスによる感染症と戦ってきた歴史を鑑みると、今回、世界中で多くの死者を出し、各国で経済破綻の憂き目に遭っている事実を繰り返さないように方策を講じるべきは絶対です。そう考えれば、行き過ぎたグローバル化を引き締めてかつての状態に引き戻すべき、ヒト、モノ、カネの移動を制限すべきとなります。それは、一言で言うと明治維新まで日本が長年行ってきた鎖国政策で、国内の人々の暮らし、ひいては産業を守りつつ、一定の制限を課しながらも必要な物資や情報については諸外国と交流し輸出入を行ってきた国策を今こそ見直すべきだと思うのです。
既に表面化していたグローバリゼーションへのアンチテーゼ。
実は、この度のコロナウイルスの蔓延でグローバル化の問題点が明らかになる以前に、既に鎖国政策への支持と傾倒が表面化していました。一つは”American First!”と、あからさまな保護主義を掲げたトランプ大統領が世界一の軍事、経済を誇る国のリーダーとして選ばれたこと。もう一つはヨーロッパの盟主を自他共に認じてきたイギリスがEUからの離脱を正式に決定したこと。世界に多大な影響を与えたこの2つの事象は程度の違いこそあれ、明らかに鎖国論と基本的な考え方を同じくします。それは、人類の理想と思われていた世界が一つになること自体が幻想であり、人類が求めてきた本質的な幸福とグローバリゼーションは直接的な関係にないことを示しているように思えてなりません。私自身、日本人が太平の世を満喫した鎖国政策をとっていた江戸時代を不幸な時代だったと認識しておらず、ペリーの黒船来航をきっかけに近代化の道を歩みながらも結局アメリカの植民地となった方がよっぽど不幸だったと思っています。できることなら、鎖国を続け、小さな島国でもそこに住まう人が幸せに暮らせる自立循環型社会を構築した方が良かったのではないかと思っています。
地球は有限、際限なき経済成長は破綻への道。
また、どちらにしても地球の面積も資源も有限であり、人間だけが加速度的に増え続け、その全員が先進国と同じ豊かな暮らしをするようになれば、一瞬にして地球の資源は枯渇します。グローバリゼーションの根本は先進国が自国の需要の限界を超えて経済成長する必要に駆られて生み出されたものであり、植民地時代のフロンティアスピリットにその端を発していると思っています。そして、良く考えれば、地域に特化したサービスを提供する業種や業態によってはグローバル化は全く価値が無いものであり、地域内で貨幣を使いあい、経済を回し、自然と共生し、自立循環型の社会を作る事こそが、幸せな暮らしに結びつくのではないかと思うのです。「今こそ鎖国論を!」というとビックリされるかもですが、この度のコロナ禍を価値観を今一度見直す機会だと捉え直し、今までふつーに是とされてきたものに対して疑問を持ち、根本的、本質的な価値を考え直すキッカケにするべきではないか?と思うのです。
Are you global? Or are you local?
そして、神戸の片田舎で建築会社を営んでいる私は、地域に根を張り地域の人の暮らしのインフラを支えている仕事についており、日経株価平均が高くなることよりも、為替が円安に振れることよりも、近所のお店が繁盛して、儲けてくれる方が嬉しいし興味があります。もちろん、本は近所の書店で購入して、一切Amazonは使いませんし、食事はできるだけ大手チェーン店ではなく、お客さんの満足にこだわって、一生懸命サービスをされる小さな個人店に行くようにしています。そこの高い安いの評価軸はなく、信頼できる、応援したいと言った、日本人が長年培ってきた共生の精神が別段意識することなく宿っている気がします。なので、当然、私たちが創る家はできる限り国産材の木材を使うようにしていますし、地元で育つ安心な野菜を食するのと同じ感覚でお客様にオススメしています。もちろん、価値観、趣味趣向は人それぞれですし、仕事上の立場もあると思います。しかし、今こそ、自分の基本スタンスはグローバリゼーションなのかローカリゼーションなのかを考え、それに沿った行動を選択する時ではないか、と思うのです。あなたはどっちですか?
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