令和2年8月25日 快晴
大工育成P@九州
昨夜遅くから九州、久留米の羽犬塚という街に来ています。JBN(全国工務店協会)の地方団体である「一般社団法人ひとにやさしい家を考える会」が主催している、半年間かけて若手大工、現場監督に建築の基礎的な技術と職業人としての在り方を叩き込む研修講師を引き受けることになり、月に2回、年末まで通い詰めることになりました。若い大工入職者への研修なんてものは本来、親方や経営者がするものであり、わざわざ県外から講師を呼んで行う事では無いような気がしますが、職人起業塾で福岡での現地事務局を、ひとにやさしい家を考える会にお願いしている流れで、是非ともお願いしたいとオファーを頂き、技術だけを教えても何の役にも立たん、上っ面ではない職人の在り方、考え方を伝えるべきと常日頃から言い続けている私としては、ここは、期待に応えてひと肌脱ごうとお受けした次第です。ただ、研修の開始時間が8時と、毎回前乗りしなくてはならないのは少し舐めてました。(笑)
羽犬塚。
研修会場は筑後市と久留米市の丁度真ん中あたりの田んぼに囲まれた田園地帯の倉庫兼事務所で、最寄りの駅という事で、羽犬塚というローカル線の小さな駅前のホテルに毎回泊まっています。それにしても「羽犬塚」って変わった名前だなー、と思っていましたら、駅前に地名の由来を書いた看板を見つけました。何でも、諸説あるとのことですが、戦国時代に太閤秀吉が九州制圧でこの地を切り取りに来た際に羽を持った犬が秀吉の行く手を阻み、たいそう困らせたとの説と、同じように太閤秀吉が来た際に羽が生えたように飛び回る秀吉がたいそう可愛がった愛犬がこの地で亡くなり埋葬した説があるとのこと。全く逆のパターンやんけ、と独り言で思わず突っ込んでしまいました。(笑) 先週の静岡の草薙然り、日本には行く先々で面白い伝説がたくさんあり、それぞれが地名に残って現代にその名残を残しているものですね。色んなところにお声がけ頂き足を運ぶのは本当に面白いし、ひょんなご縁を頂かなければ一生訪れる事がない場所に行けるのはありがたいものです。
出張の楽しみ。
片道4時間弱の出張のお供は私の場合何と言っても小説です。当然、新幹線の中でPCを開いて仕事もするのですが、何となく、旅行気分になってしまいがちで、早々にPCを閉じて読書に没頭してしまいます。今回の出張で読み終えたのは、、大好きな司馬遼太郎の峠で今までなぜ読んでいなかったのか?と自分でも不思議なくらいどハマりする面白さでした。この小説は司馬遼太郎の代表作である「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」と同じように新聞に連載していた長編小説で、何と連載開始が昭和41年、終了が43年と私が生まれる前後をまたいで書かれていたようで、50年以上も前の作品にもかかわらず、全く古さを感じないどころか、今の時代にこそ読むべき物語ではないか、と思うほどのめり込みました。何と言っても、主人公が「河井継之助」という、社名を今季から「株式会社四方継」に変更したところの私にとってはドンピシャすぎました。(笑)
継之助の生き様。
河井継之は助は越後長岡藩の家老で最後のサムライと言われる程、武士としての美意識を持ち続け、鮮烈な生き様と死に様を貫いた人として、知る人ぞ知る人、人物で、上杉鷹山と並んで儒学的な倫理感を経済に転化して藩の財政を立て直した事で有名な、岡山松山藩の山田方谷の最後の弟子として耳にされた人もおられると思います。激動の幕末から明治維新への変革期に於いて西欧列強の圧倒的な力を認め、開明派としてその軍備の導入を積極的に進めながらも、明治維新の新政府軍に恭順する事をせず、破滅する事を分かっていながら長岡藩を率いて北越戦争に突入した、いわば戦犯でもあり、長岡の民からすると恨むべき存在でもあったようですが、日本の精神性を顕著に表したと言われる武士道を体現した英雄としての側面も持っており、賛否両論、評価が大きく分かれる人物ですが、所詮は敗者、歴史の表舞台で大きくその名が語らえることはありません。
日本人は武士道やろ。
私が驚いたのは、この河井継之助を主人公にした小説が私がこの世に生を受けた前後に連載されていたことです。50数年たっても全く色褪せず、輝きを保ち続ける苛烈な人生を送った人間ドラマを書かせると、やはり司馬遼太郎はすごい!と改めて感心させられました。そして、以前手にした新選組の土方歳三を描いた「燃えよ剣」など官軍側からの視点の対比と、時代の捉え方は同じ人物が書いたとは思えない真逆の立場の英雄をそれぞれ感情移入させられる深さまで導いてくれることに驚きました。裏表の両方から、コテいう観念に囚われず、様々な視点を持って物事を観ることの重要性に気付かされます。コロナの影響でどうなるかわかりませんが、この秋には映画化される計画もあるようですし、古い小説ではありますが、最後のサムライ「河井継之助」の人生を描いた「峠」は日本人が持つ価値観の根本の部分に気づかされると思います。ご一読、お勧めします。