「大工の数が2030年に21万人に!」の根本的解決策。

平成30年6月14日 晴れのち曇り

梅雨の合間の好天

今朝の神戸は真っ青な青空が広がり、真夏の様な太陽が顔を覗かせました。しかし、昼からはやっぱり曇りがちで、やはり当分は鬱陶しい天気が続く様です。。
とはいえ、朝一番はいい天気に気分をアゲながら、インスペクション担当の姫井くんと「家づくり学校神戸校」からご紹介を頂いたお客様宅にリフォームのご相談と、インスペクション(建物診断ですね、)を行なってのご提案をすべくダンプに梯子を積み込んで張り切って出かけました。現地に到着後、お客様に今後のお住まいをどの様に使いたいか、暮らしたいかのアウトラインを聴かせて頂いた後、姫井くんが屋根、外壁、天井裏、内部造作、建具、床下とインスペクションのチェックシートに従って調査、私も一緒に屋根に登ったり、天井や床下に頭を突っ込んだりと問題箇所の改善提案に参加すべく確認作業に勤しみました。

リフォーム提案の難しさ。

お客様にお話を伺っていて感じたのは、やはり「安心して、快適に暮らしたい」というニーズで、詳しく建物調査を行なった結果をもってリフォームで今抱えている不安や問題を解決する提案を行います。とお約束をしました。築年数が50年近くなる住宅に住まわれる方に伺うと、皆さん多少の違いはありますが、大体は共通の心配事や改善したい事を抱えておられます。今回も外壁、屋根等外部からの雨水の侵入、耐震性能、断熱性能、内装の老朽化、水廻り機器の交換、使い勝手の改善と私が気にしておられるのではないかと思い、質問したことに対して全て興味を示されておられました。しかし、それぞれの問題点には程度の問題があり、我慢できないものと出来るもの、また優先順位とコストの配分も絡んでくる事なので、悪いところは治しましょう、と、簡単にまとめられるものではありません。

快適便利のその先。

それがリフォームの難しいところで、例えば、気密、断熱性能が皆無で冬になると隙間風が入ってきて寒いと言われていた単板ガラスの木製掃き出し窓は「断熱リフォームはまず窓から、アルミサッシやインナーサッシを取り付けて外気を遮断しましょう」と提案するのは簡単ですが、年数を経て、いい感じのアメ色に変色したピーラー無垢材の框組の窓は座敷の中から雪見障子越しによく手入れされたお庭の植栽を見るには最高の取り合わせで、温暖な瀬戸内の神戸にあって短い冬の為に何の風情もないアルミサッシに交換してしまうのは残念でしょうがありません。ちなみにお客様は「真冬の寒い間は住まい方で何か違う対策を考えて、この木製窓はそのまま活かしたいですよね」と申し上げた私の言葉に大きく頷かれておられました。便利、快適は大事ですが、私たちは表面的に見えるモノではなく、暮らしをどの様に気持ちよく感じて頂けるかと言うコトに焦点を合わさなければならず、それはそこに暮らす住まい手さんの価値観を理解してこそ出来るし、また、精一杯、理解する努力をしなければならないと改めて感じた次第です。いい提案が出来る様に心を尽くしたいと思います。

話題騒然の未来予想。

話は変わって、、本日の建築業界専門誌メジャーの新建ハウジング誌のネット配信のニュースがSNS上でちょっとした話題に上りました。それは大手シンクタンク野村総研が発表した今後の大工の就業者数の推移のグラフで、これまでもこのブログで繰り返し注意喚起を行ってきましたが、本格的に始まった圧倒的な職人不足の到来を改めて示した記事でした。私もオープンセミナーなどで毎回の様に言い続けておりますが、今後の消費税の増税、少子化の影響での世帯数減と建築業界は先行き不安定なだけではなく、構造的に衰退産業としか言いようがなく、新築に限ると2030年には昨年の着工棟数の半分になると言う予想もあります。確かにこれも衝撃的なニュースだったのですが、それよりも職人不足の方が更に酷い状況になると言うのが今日のニュースでした。以下に国交相が発表している新築着工棟数の推移予想のグラフと並べて新建ハウジングオンラインの記事を転載しておきます。

実績値は国土交通省「住宅着工統計」より。予測値はNRI。
出所)実績値は国土交通省「住宅着工統計」より。予測値はNRI。

大工の人数は2030年21万人に 野村総研が予測

大工の人数の実績と予測結果

野村総研の予測。実績は総務省「国勢調査」より

野村総合研究所(東京都千代田区)は、大工の人数が2030年に21万になるとの予測を発表した。大工の高齢化、産業間の人材獲得競争の激化などの影響により減少が進むとの見方を示した。

同社は2030年の新設住宅着工を約60万戸と推測しており、大工1人あたり年2.9戸。今後は新設住宅着工戸数の減少幅を、大工の人数の減少幅が上回ることになり、生産性の向上が求められるとしている。

大工1人あたりの住宅着工戸数の実績と予測結果

野村総研の予測。実績は総務省「国勢調査」、国土交通省「住宅着工統計」より

大工の生産性1.4倍に!

この記事では大工の生産性の向上を求めて記事を締めくくっておりまして、現在の1.4倍の生産性が求められるとありますが、職人の仕事を1.4倍早くさせよう!と言う現実味の薄い論調には正直驚きました。多分、プレカットや天井張りロボットなどの機械化、ITやAIを駆使しての段取りや省力化を進めるべきだと言う事を言いたいのだと思いますが、例えそれが一気に進んだとしても冒頭のリフォーム工事の現地調査の様に、決められた図面通りにまっさらな家を組み立てる新築よりも今後需要が増え、市場規模も大きくなると言われるリフォーム、リノベーション工事では今あるものを生かし、住まい手の趣味嗜好にあったオーダーメードの工事を行う必要があります。同じ年代に建てられたよく似た建物であっても全ての現場で住まい手に必要とされる工事は違います。となると、やはり、そんな簡単に生産性を上げることなど出来ません。

悲観的に予想する。

おまけに、私としてはこの野村総研の予想グラフが今年度以降も同じか、もしくはこれまでより少し緩やか目な減少率になっているのは少し楽観的すぎないかと思っていて、もっと圧倒的な職人不足の到来が迫っているのではないかと危機感を募らせています。その根拠は国土交通省が出されている資料の中の建設技能労働者人口の推移グラフでこれは大工だけではありませんが、毎年の減少率の推移自体で既に右肩下がりの上に若年層の入職者が皆無に等しいのを表しています。これまでの就業者数の推移は年を重ねる毎に全ての年齢層が減少しているのですが、25歳以下の若年層は減少するパイも無いくらい、そもそも存在していないのです。これは私達くらいのまだ、職人になって手に職をつければそこそこ稼げると思って建築業界に入ってきた年代が引退に近くに従って加速度的に人材不足が進むことを如実に表しています。

建設技能労働者 推移
建設技能労働者 推移

複雑怪奇な解決困難な問題にぶち当たった時、解決への大きなヒントとなるのはやはり原理原則に立ち返る姿勢、思考だとよく言われますし、私もその様に思っています。いくら新築の着工棟数が減ったところで、家はずっとメンテナンスが必要であり、維持するだけでも絶対に職人が必要です。また台風や地震などの天災がある度にインフラの復旧、街の復興は実際に現場で汗を流す人がいてこそ進みます。その人が居なくなると言う予想になっているのですから、どう考えても若者の入職者を増やす事を考えるべきで、そこをすっ飛ばしての生産性の議論はちゃんちゃら可笑しいとまでは言いませんが、(言ってるか、笑)やはり本質から目を逸らしているのではと思わざるを得ません。今一度、何故この様な惨憺たる有様になってしまったのか?と言う原因に目を向け、その原因を取り除く取り組みをした上で、効率を上げる、効果性を高める取り組みを行うべきだと思うのです。

大工を育てられなかった理由

リアルに職人を育て、自社社員大工での施工にこだわった工務店を経営している業界の中にいる私から、大工をはじめとする職人が激減した理由を乱暴かつ簡略にまとめると、若者に不人気な職種になったからの一点ですが、それは、職人が稼げなくなった。キツイ、汚い、危険な仕事は今のIT全盛期の時代に育った若者の趣向にそぐわない。収入が不安定、社会保障も無い様な職場に就職するのを親は泣いて止める、と言う事だと考えます。しかし、よく考えるとそれは私たち建築業界が自ら選択して作り出した環境であり、ここに来て大きな問題になってきた職人不足問題はいわば自業自得の結果だと思っていて、業界全体、と言うよりも工務店、建築会社の経営者が今こそ覚悟と根性で上記のマイナス要因の解決に足を踏み込むべきだと思います。以下に以前の私のセミナーで挙げていた工務店が職人育成を放棄した理由を列記しておきます。

  • 人員の在庫は健全経営へ足かせ。
  • 社会保険、年金加入の重い負担。
  • 人材育成費用の利益転嫁への困難。
  • 職人を教育する事が難しい。
  • 仕事を覚えた頃にはやめていく。
  • 若いモンはすぐにやめてしまう。
  • そもそも、ろくなヤツが来ない。
  • 未来の売上げが読めないので未来を担う人材への投資が出来ない。

決意と覚悟、気合と根性だけではダメ。

以上の大工を正規雇用して育成するのが出来ない理由を根本的に変革して職人育成を継続的に行うには決意と覚悟だけではやっぱりダメで、今後厳しくなると言われ先行き不透明に過ぎる市場の中で余分なコストがかかる職人育成を行うのは、随分と勇気がいる事ですが勇気だけではなく、ロジックが組み立てられなくては話になりません。そして、その解決策の根本にあるのは結局、コストの問題であり、シンプルに整理すると持続継続的な未来の売り上げが見えていれば大まか問題は片付く訳です。こんな流れ、

  • 年間通して途切れない受注。
  • 適正な利益を確保
  • 職人の人材として育成への投資。
  • 独立に勝る魅力的な職場環境作り。
  • 若年者キャリア形成プランの策定。
  • 新卒採用への取り組み。

マーケティングと人材育成はワンセット

そんなこんなで、職人不足問題を根本的に解決するには建築会社が若者を受け入れるために他の業種に引けを取らない労働環境を整える事、その為には継続的な売り上げ、利益を上げ続ける仕組みを構築する事がまず必要になる訳で、ドラッカー博士が「マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ」と言われた様に時流や販売促進活動の反響に頼るのではなく、地道に自社の顧客を集めたマーケットを作り上げ、LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)を引き受ける事で、まるで300年続く京都の老舗漬物屋の様に顧客のニーズに応え続けるだけで自然に持続出来る売上利益を確保できるエコシステムを作り上げる事が必要だと思っています。企業は人なり、建築は現場なり、建築業のマーケティングとは現場人材育成とワンセットだと思っていますし、この十年間その様にやって来ました。全国で展開している職人起業塾の研修事業はその実践方法をお伝えしている次第です。職人不足問題、本気で取り組まんとまずい、と思われている方は以下の連絡先までお気軽にお問い合わせください!(笑)

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