職人を切り捨てて来た工務店経営者の懺悔。

平成30年12月10日 晴

師走2週目。

忙しさもピークに差し掛かってきた月曜日。先週は九州、東北、東京へと出張が重なり、昨日の日曜日はその仕上げに帰りの新幹線を京都で途中下車、滋賀県和邇で今年最後の茶の湯のお稽古と、いくつかの今年の締めと来年に向けての種まきをを行うことができました。非常に実りの多い1週間だったと思います。ただ、これだけ出張が重なると地元神戸での実業が溜まりに溜まっており、気合を入れて年末までに済ますべきタスク、そして新しい年を迎える準備をしなければと若干の焦る気持ちも抱えつつ、気持ちを新たに気合を入れています。

お客様に挨拶もできない大工。

全国各地に飛び回った先週の1週間、行く先々で多くの工務店やリフォーム会社の経営者さんと毎日のように話す機会がありました。私が質問を受けてアドバイスをしたり、逆に勉強させてもらったりとその内容は様々ですが、とあるリフォーム会社の経営者さんから衝撃的な話を聞かせてもらいました。「今時そんなのあるの!」と思わず口走ってしまいましたが、とにかく工事をやってもらってる外注の大工の態度が非常に悪いとのことで、先日リフォーム工事の着工に現場に行き、社長がお客様に挨拶をしている横でその大工はポケットに手を突っ込んだままろくに挨拶もせず横を向いているらしく、社長がその大工にお客さんに挨拶をするように促すと、めんどくさいこと言うな、と逆ギレして現場を放棄して帰ってしまったとのこと。

態度が悪いけど仕事はできるんだよな、

これでは社長の面目丸つぶれですし、何より自宅を改装しようとしているお客さんの気持ちを考えると心ない大工が家に来たことをさぞかし不安に思っているだろうと胸が痛くなります。「大工が帰ったその後どうしたんですか?」と顛末を聞くと、その大工を帰らせてしまうと工事が進まず、かといって他に職人を集めるのも間に合わないのでとりあえずはこのどうしようもない大工をなだめすかして現場に連れ戻し工事を進めたと言のです。私にすればそんな奴は職人としてと言うよりも、社会人として、いや人間として話にならんと付き合いを一切やめるべきだと言いましたが、よく聞くと態度は悪いけど仕事の内容はきっちりやるし、手も遅い事はなく、昨今の職人不足の折、必要な戦力だとのことでした。要は職人としての仕事は全うしている風なのです。

施工管理者と言う小間使いに成り下がる。

よくよく話を聞いてみると、その経営者と大工はもうかれこれ15年位の付き合いらしく、ずいぶん前からその調子で現場作業は人並み程度、もしくはそれ以上行うが、それ以外の面倒な事は何一つ行わず、施工管理者や営業に現場の雑務は自分の仕事ではないと、全てやらせてまるで小間使い手元のように扱うとのこと。自社で施工を行わない営業系のリフォーム会社では、たまに耳にする話ではありますが、それもずいぶん昔のことだと思っていて、いまだにそんな大工がいるなんて驚きです。実際に現場でものづくりをする職人と、企業との関係が逆転していては施工管理は機能せず、まっとうな工事が出来るかも怪しいものですし、現場に余分な経費がかかり企業の利益が損なわれる可能性も大きくあります。何より、施主と職人の関係が遠くなることで、お客様の立場に立った工事にならず、表面的、潜在的にかかわらずクレームが起こりやすい土壌が生まれるのではないかと思っています。

顧客の評価は現場にしかない。

その話を聞かせてくれた経営者は、明確な理念を持っており、事業を通してお客様の喜びを作り、地域に貢献したいと高い志を掲げておられます。何より残念に思うのは、その理念が現場の職人に理解されておらず、事業の実態に経営理念が反映されていないことです。リフォーム業を含む建築業はものづくりが実業であり、それ以外の営業や設計などは実際の工事がお客様の思っている通りに出来あがるためのプロセスの一環に過ぎません。いくらカッコイイプレゼンテーションをして、デザイン性の高い設計図書を書き上げたとしても、実際のものづくりがガタガタでは話になりません。そして、施工管理は職人の全ての行動を管理することは不可能で、実際に手を下す者に良心がなければ絶対にまともな工事になりません。顧客が工事を依頼する目的は工事を終えてからの暮らしを良くするためである事、現場で作られたものから生まれたコト(体験)が評価を得るからこそ、次の仕事に繋がるのを建築現場に携わる全員が深く認識していなければ顧客の満足は得られないと思うのです。

大工の意識を変える、もしくは切るかの2択

私がその経営者さんに提案したのは、自分勝手、勝手気ままなその大工と何のために工事をやるのかと言う目的、また事業所の経営理念を共有できるところまでコミニケーションをとり、意識を変えてもらう。もしくは、いくら話し合ってもわかりあえないのであればさっさと諦めて違う大工さんを探してすっぱりと取引をやめる。のどちらかを急いで選択するべきだと言うことでした。ちなみに、私は起業した際のミッションとして自分自身の出自が大工だったこともあり、「職人の社会的地位の向上」と掲げておりますが、それは単純に大工の所得を守ると言うのではなく、大工自身が考え方を変え、高い意識を持ち、決められた仕事だけを行うのではなく、自助の精神を持って現場でのものづくりで顧客満足を勝ち取り、次々に紹介やリピートで声がかかって自ら次の仕事を取ってくる位の付加価値を持つ事が不可欠だと思っています。

経済無き理念は寝言である。

「職人を守る会社を作る」と言って起業した私ですが、実はこれまでの20年間の間、すみれを退社した職人は数え切れない位います。袂を別つことになった原因は様々ですが、1番大きな要因は私が大工に対して、意識を変え、働き方を変えるオーダーを厳しく出し続けてきた事です。職人でありながら社員である以上、会社の取り組みに積極的に参加してもらう必要があるわけで、特に経営理念を実現すべく、大工に顧客や近隣住民への窓口や現場全体の施工管理、それを担えるだけの知識を持つようにと研修会への参加や資格の取得、またお付き合いいただいているお客様へのアフターフォロー、情報公開のための現場ブログの更新等々、それまで大工の仕事とは思われていなかったことを次々と大工の役割として割り振り、その実践を求め続けてきました。その結果、「もうこれ以上ついていけません」と私の元を去っていった大工はこれまで数え切れません。正直、そう言われる度に私がやってきた事は本末転倒ではないかと、随分悩みました。しかし、職人の社会的地位の向上を図ると言いながら、意識を変えることができない、行動を変えれなかった大工を大勢振り落としてきたのが事実です。何もしないよりは中途半端のほうがずっとマシと言う言葉を植松努さんはTEDトークで口にされましたが、大勢の人間が1つの現場を作り上げる建築業界では、1人の低い意識が他の全員の努力を一瞬にして水泡と化してしまいます。我々の業界においては中途半端は何もやらないのと同義語だと思っています。ただ、去っていく職人たちと腹割ってとことん話し合ったかと言うとそうでもなく、やはり独善的な経営をしていたのだと大いに反省しています。

ワンチャン!

上述の経営者さんに二択の提案をした際に、そんな自分自身が抱えてきたジレンマというか、黒歴史というか、決して胸を張って正しい選択をしたとは言い切れないような自分自身の経験談を告白しました。その上で、再度コーチング的なアプローチでのコミニケーションの重要性を確認しあい、まず聴く、そして理解してから理解されるの大原則に則った取り組みを億劫で面倒ではありますが、勇気を振り絞ってチャレンジしてみることを強くお勧めしました。実際にとうに愛想を尽かした大工と話し合う機会を持ったところで、たいした進展も成果も見込めないかもしれませんが、最後のワンチャンスだと思って腹を割って話してもらえれば私としては嬉しい限りです。こんなことが私がこれまで失敗してきたことの贖罪になるとは思いませんが、仕事をまともにできる大工は本当は心ある人間なのだと思うし、そうあってもらいたいと願っています。Y社長、馬力かけて気張ってください。

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