ラストメッセージ。

平成30年5月21日快晴

信州から横浜へ。

今日は長野県松本駅前のホテルで目覚めて朝早くから横浜に移動、漏水トラブルでお店の営業を止められているクライアント先を訪問してビルのオーナーさん、漏水改修専門業者と共に対策の協議を行いました。老朽化したビル設備のトラブルは悩ましい問題が重なり、一筋縄ではなかなか簡単にケリがついたりしませんが、問題点を順番に潰しつつ、最短でしかも今後の営業に支障が出ない工事の手順をまとめるように心がけ、前向きな話し合いができました。緊急を要する案件だけに、状況の把握と共に伺えて良かったですし、今後の対処についても全力を尽くしたいと思います。

突然ではない訃報。

実は、松本のホテルに滞在していた一昨日の夜中に妻から連絡があり、義父が他界した旨の連絡がありました。義父は以前から脳梗塞の後遺症で介護施設で寝たきりの生活で、数ヶ月前にガンの発症と進行が認められて、覚悟を決めていただけにショックはありませんでしたが、随分と世話になったこともあり、感謝の言葉を伝えに最後のお別れくらいしておきたいと思いました。しかし、結局、それも叶わずとなってしまいました。私は、松本に昨日開催された安曇野センチュリーライドなる自転車のレースに参加する為に一昨日から滞在しており、そのまま今日、上述のクライアントとの約束があり、横浜へ移動する予定となっていました。夜中に連絡を受けて、今更急いで帰ったところでどうしようもないので、昨日は予定通り、松本〜白馬を往復する160kmの自転車レースに参加することにして、レース終了後急いで帰ればなんとか今日の葬儀には間に合うから帰ろうか?と妻に相談したところ、「仕事優先で良いちゃう」と言われて葬儀の参列を諦めました。今日の打ち合わせの内容を鑑みるとそれで良かったと思います。

仕事も大事やろうけど、なんとかならんのかいな。

長野から東京、横浜、そして神戸に帰ってくる途中で繰り返し頭をよぎったのは、昔、義父に言われた言葉です。それはまだ私が起業したての頃で、昼夜なく現場で職人として働いていた職人親方時代。娘が生まれた時に病院に付き添ってくれていた義父は、現場に出ている私になんども電話をかけてきて、「もうすぐ生まれそうやぞ、はよ帰っておいで」と繰り返し言い続けられました。私は「わかりました、急いで現場を終わらせたら向かいますから、」とその度に答えましたが、その時も難しい漏水の案件で、現場は思うように進まず、そうこうしている間に娘はこの世に出てきてしまいました。最後の電話で義父は「今生まれたで、母子ともに健康や、良かったな」と言ってくれましたが、同時に「なんぼ仕事や言うたかて、もう少しなんとかならんのかいな」と悲しそうな声で私が妻の出産に間に合わなかったことを残念がって、後にも先にもその時初めて私の所業をなじる口調だったのを今でも強く覚えています。

出来るのは、ご冥福を祈るだけ。

私としても、初めて自分の命より大事なもの、命を捧げても悔いないと思えるものがこの世に出て来るのにも目の前の仕事、お客様をほったらかしにすることができなくて立ち会えなかったことに対して、自分の不甲斐なさに悔し涙を流したものですが、今回、その義父の葬儀にも仕事を優先して立ち会えなかったのは因縁というか、結局、私は50歳を過ぎても起業当時と比してあまり変わっていないと言うことだとと気づき、お義父さんは昔からそれを知っていたのだと思い返しました。今頃あの世で「たけしくん相変わらずやなあ」と苦笑いされているのではないかと思うのです。帰ってから改めて仏前でお詫び申し上げるようにしますが、今はただ、大往生と言っても違わないお義父さんの人生を想い、ご冥福を祈りたいと思います。

人生のカウントダウン。

それにしても、、身内の訃報に際して改めて感じるのは、私達は誰しも毎日死に向かって進んでいて、そしてその人生の期限は誰にもわからないってこと。内臓の疾患を治して元気そうに飛び回っている私にしてもいつ何時、あの世に旅立つかわかりません。スティーブジョブズではありませんが、私もいつ、何が起こっても悔いのない生き方をせねばならぬ。と思い返しました。ただ、お義父さんの場合は、寝たきりの生活の中で癌が発症し、年齢的にも手術を行うのは困難だったこともあり、その進行が止められないと分かった時点で人生のカウントダウンを迎えることが出来たと思います。そう言う意味では、突然死ではない癌によ本人がどれくらい認知していたかは明らかではありませんが、最後にお見舞いに行った際には、「高橋くん、がんばれ」と拳を握ってくれたのが強く印象に残っています。

ラストメッセージ。

そんなお義父さんが元気だった頃、最後に勧めてくれた本が百田尚樹氏の「海賊と呼ばれた男」で、私はその小説を読んで、大いに感動し出光佐三氏の生き方、考え方にリスペクトしたもので、それから「反骨の言霊」など、同氏の関連書籍などを読み漁りました。現在、一般社団法人職人起業塾の研修事業を行いながら、塾生さんたちに繰り返し言い続けている「観念(概念)は実践で裏打ちしてこそ知恵になり、哲学になる」と言う出光佐三氏の至言はもとを質せばお義父さんからの最後にもらったメッセージだったと言うことになります。また、その言葉だけではなく、出光佐三氏が掲げた大家族経営、人材育成と大きな志を基にした団結こそが企業を発展、維持する源だと言う考え方は私に大きな影響を与えてくれましたし、志(観念)を実践で裏打ちし続けることの重要さをコミットさせてもらいました。お義父さんのご恩に報いることが出来るように、生ある限り事業に精進したいと想います。お義父さん、安らかにお眠りください。

 

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