乃木坂にて終わりから考える。

令和21007日 曇り後雨

東京から九州へ。

引き続き東京からスタート。午前中は未曾有の大打撃を業界全体に受けているにもかかわらず、果敢なチャレンジを行われている神戸本社のアパレルメーカーのショールームの改装工事をご依頼頂き昨日から南青山で着工した現場で担当者への引き継ぎや現場で細かな収まりの打ち合わせ。夕方には明日の九州での若手大工育成プロジェクトの講師を務めるべく、羽田空港から福岡に飛ばねばならず、相変わらず慌ただしく走り回っています。

乃木坂にて

空港に向かう道すがら、時間に余裕があったのをいいことに、青山からすぐ近くに乃木坂があることに気がついて乃木神社と乃木希典将軍の自邸が保存されている乃木公園に立ち寄りました。乃木将軍というと、日露戦争の旅順攻略や凄惨を極めたと語り継がれ、映画にもなった203高地で旧帝国陸軍の指揮を取り、日露戦争に一応、日本軍は勝利した事から英雄と祀られている有名な軍人です。

無能の軍神

私が乃木将軍を知ったのは、司馬遼太郎の代表作とも言われる「坂の上の雲」で、そこには無能な指揮官のせいでおびただしい人数の兵士が無駄死にさせられた、無能は罪である。と厳し過ぎるくらい批判的に書かれており、英霊として神社まで建てられて崇められている英雄をここまで叩くのか。と驚かされたのを今も鮮明に覚えています。また、司馬遼太郎は殉死というタイトルで乃木将軍の生涯を別の小説で描かれています。丁度10年前にこのブログでその感想を書いていました。以下、再掲。

殉死

「この殉死という題名は日露戦争後、昭和初期に軍神とあがめられ小学校の教科書にまでそのエピソードが称えられた乃木希典の物語です。誤解が無いように書いておくと司馬遼太郎はこの軍神を史上最低の無能な指揮官として捉える視点を常にもち、日露戦争における旅順での壮絶な数の日本軍の戦死をこの無能な指揮官の責任だと何度も繰り返し切って捨てております。しかし、近代の日本史を見るに、この殉死が後の非論理的な精神論に振り回された帝国陸軍の破滅への道程のマイルストーンになった。という意味で大きな関心を持っていたようで、その詩的な才能とその自己陶酔?ともいえるような美学の中に人生の幕を自ら降ろした事については一定の評価をしているようです。若い頃、軍旗を敵に奪われるという一生忘れがたい失態を犯し、日露戦争では二百三高地で無能の指揮官と罵られながらも攻略を果たしますが、2人の息子をその戦争で失います。終戦後は陸軍大将で伯爵となるなど名誉栄華を極めつつ、明治帝の崩御と共に殉死した。」

歴史は学ぶもの

乃木神社では乃木将軍を軍神として祀っているのですから当たり前ですが、司馬遼太郎の小説は事実無根であり、彼の歴史史観はねじ曲がったものだと一刀両断の文言が書かれておりました。私としてはどちらが正で一方が誤りだと判断する気は全く無くて、確かに乃木将軍が下知した司令が多くの兵士を死地に追いやったのは事実かも知れませんし、もっと他にいい選択があったかも知れません。しかし、国の存亡を背負った極限状態で殺戮の任を仕事として受けもった軍隊のトップの行いを後からとやかく言うものではないと思っています。同時に、大東亜戦争で大本営が精神論を振りかざし、愚行とも言われる作戦を繰り返したのも、結果から見れば愚かではありますが、当事者は命を賭けて考え、判断したであろうと思うし、歴史の検証と反省は絶対に必要で戦争と言う力の行使で問題解決を図る過ちを二度と繰り返してはなりませんが、当時の軍人を結果論で罵る様な事はあってはならないと思うのです。歴史は学ぶ対象であっても、卑下したり馬鹿にするものではありません。

終わりから考える。

私は、少年時代に親友を亡くし、毎年彼の墓参りに行くたびに、俺の人生は彼が行きたかった人生を体現できているか?と長年自問自答を続けています。その積み重ねで、自然に自分の人生を俯瞰して見られるようになってきて、自分が主人公にしたストーリーだと思い込んでしまっている節があります。そして、物語は、何よりも結末が重要で、終わり方が降らないと物語は台無しになります。そんな視点から見ると、乃木希典将軍の人生は、紆余曲折、波瀾万丈で、栄光と転落、生き恥をかいたなどと揶揄されながらも最後は明治天皇の崩御とともに自決、殉死を果たしたのは、美学としては非常に美しいものであり、彼の物語の結末としては最高の選択ではないかったかと感じてしまいます。特に意識をしていたわけではありませんが、10年以上前に彼を題材にした小説を読んでから私はずっと憧れのようなものを抱いていたのかもしれません。乃木神社に参拝して、改めて人生を終わりから考えることの大事さを感じ直した気がします。稀な機会を頂けたことに感謝します。


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