道徳の時間。#大人の責任

令和2年9月30日晴れのち曇り

第三四半期終了。

水曜日は朝活の日。今日は九月の末日、今年の第3四半期は今日でおしまいです。社内では四半期ごとの面談が花盛りで月末月始の予定がびっしりと詰まってしまいました。今朝の朝活では私が所属しているBNIドリームチャプターでもコロナの影響をモロに受けて運営に大変な苦労を強いられた第4期の最終日を迎えました。先行きの見えない上にこれまで経験のない、暗中模索の中で対人コミュニケーションを回避しながらチームを支えてきてくれたリーダーシップチームの皆様には心から感謝します。そしてまた、明日からまた新たな期が始まります。新たに入会される方も、期末を区切りに退会される方もおられて悲喜交々ですが、出会いと別れ、新陳代謝は生きとし生けるものが必ず受け取る摂理だと、前向きに新たなスタートに臨みたいと思います。

学生からの問い合わせ増。

朝活を終えた後は学生さんの面接を行いました。このところ、何故かHPから学生さんからの問い合わせが多くあり、採用希望だけではなく話を聞いてみたいとか、意見を聞かせてもらいrたいとか、よく分からないアプローチで来られたりします(笑) 私としては、若者離れが進む建築業界に学生が興味を持ってくれるのは嬉しい限りで、採用するしないは別にして話を聞いたり、アドバイスをしたりする時間を取るようにしています。今日来られた学生さんは、高専の建築科を卒業後、大学に進み、現在、院生となって建築思想の研究をするか、それとも就職して実際にリアルな建築設計の世界に飛び込むかを悩んでおられました。私としては工務店で設計者になるにも大工から始めるべきだとの持論があり、その事を伝えましたが、リアルに現場で汗をかいてモノづくりに励むのを勧められるとは予想だにしていなかったようで、びっくりされてしまいました。(笑)
結論、すぐ近くの明石で全国的に大活躍されている新進気鋭の設計事務所のM設計さんにご紹介しておきました。(笑)

住まい手と作り手の媒介になりたい学生。

昨夜は京都の立命館大学3回生の女子学生とみっちり1時間、zoomを使ってのオンラインmtgでした。文系の学生さんで、建築の専門知識を学んでいないにも関わらず、建築に非常に興味を持ち、地域に住まう人の家づくりの想いを共有して、作り手に伝える媒介のような仕事をしてみたいと考え、女性設計ばかりの設計事務所でもある弊社にお客様の要望をヒアリングする実務とはどのようなものかを聞きたくて問い合わせを下さったようでした。要するに、いわゆる住宅営業をもう少し柔らかい立ち位置にしたような仕事をしたいように受け取れましたが、文系にも関わらず、建築業界に飛び込んでみたいと思ってくれたのは嬉しい限りで、君には大きな付加価値を生み出す可能性があるかもね、と激励しつつ、これも私が顧問を務めている京都の新進気鋭の工務店、G社に紹介しておきました。(笑)

10社中2社。

その彼女曰く、全く分からない建築業界で私の考えていることに価値があるのか、立ち位置として成立するのかを知りたくて、大阪界隈の工務店10数社にメールフォームから問い合わせをしたとのことでした。しかし、その中で丁寧に返信をしてくれたのは、弊社と大阪の松原工務店の松原社長だけだったとのことで、HPで熱い想いが伝わってくる会社はやっぱり対応が違いますね。と持ち上げてくれました。大阪の松原社長は私もよく知っているやり手の若手経営者で、私が主宰している職人起業塾のWSにも参加されています。また、彼が音頭をとって大阪で未来建設プロジェクトなる子供達に建設の職業体験をしてもらう大々的なイベントには一般社団法人職人起業塾で協賛もしていますし、私もイベント会場や会合に参加しに足を運んだりしている仲です。

自己欺瞞の認識。

私と、松原社長の関係を説明する際に、自社の事業以外にも業界全体が良くなるようにとの同じ志を持って幅広く活動の場を広げている経営者はみんな繋がっているんだよ、自分だけが良ければ良いという考えではダメだし、イマカネジブンの価値観を排除することが世の中を良くするには必要なんだよ。と熱く語ってしまいました。そして、「私もそんな大人になれたら良いな〜」という彼女に対して、自分の良心にまっすぐ向き合って、正しいと思う事を当たり前に行うように日々心がけるようにアドバイスをしておきました。「例えば、電車に乗った際に(私くらいの)白髪のおじさんが乗り込んできたら、席を譲ってあげるかといえば、相手に失礼かも、とか、自分も疲れているからとか、声をかけるのが恥ずかしいとか、いろんな言い訳を考えて自己正当化して良心を欺く自己欺瞞に陥るやろ、それをやめるんやで、それが良い世の中を作る第一歩や。」との私の説明になるほど、と少し納得してくれたようでした。

因果応報のビジネスモデル。

実は上述の男子学生にも同じような話をしており、地域の素晴らしいサービスや商品、そしてひとを紹介し続けて、地域に住まう人々のご縁を繋ぐ事業である「つない堂」の事業モデルの説明をする際に「因果応報という、良き事を行えば良き事が返ってくるというのを信じるか?」との私の問いに対して、彼は「半々です」とのなんともならない返事をしました。私は、人は全員、良き心を持っていて、お世話になった人にはご恩を返したいと思うもの。私心なく、良き事を積み重ねる事を続ければ、きっと私たちを信頼して良い仕事を紹介してくれる人が現れる。我々は人が持つ良き心を信じて事業モデルを計画し、実行しているんやで。とこれまた熱く語っておきました。なんて青臭いおっさんやと思われたかも知れませんが、徒手空拳だった私が起業して20数年事業を続けてこれたのは、私たちを信頼してくれたお客様に生かされてきたからに他ならず、それらは仮説ではなく原理原則に即しています。

道徳の時間。

立て続けに学生さんと面談する機会が続き、私の持っている仕事への基本姿勢や「信頼」をベースに組み立てる事業の成り立ちを説明するにつけ、感じた事は、これから社会に出る若者は道徳観、倫理観が社会で大きな付加価値を生み出している事に全く気づいていなさそうだという事でした。確かに、インターネットを覗けば方法論やノウハウが幾らでも転がっている今の時代、「うまいやり方」を見つけたものが勝ち、との風潮があるように感じます。しかし、人がお金を使うのは心を動かされた時であり、誠実で真摯な姿勢を持ったサービスや商品にこそ、価値を見出すのもまた真理です。そんな原理原則をあまり理解できていないのは、教育課程において道徳の時間が少ないのではないか、と思ったのです。特に、高校生や大学生になってから、社会に出てお金を稼ぐとは信頼を得る事だと、マーケティングの基本原則程度は人の在り方と一緒に論ずる場を作っておくべきだと思うのです。翻って、私たち大人が今一度襟を正して規範を示さねばならぬとの決意と共に。


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リーダーの器とセールス→マーケティング→マネジメントの失敗 #貞観政要

令和2年9月29日快晴

疾走。

夜風が気持ちいい季節になりました。今日は早朝から夜までぎっしりと予定が詰まっており、分刻みのスケジュールに追われて走り回る1日になりました。午前中は10時に約束があった新築のご相談にお客様が来られる前に、なんと3組も取引先の(アポなしもしくは突然のアポ取りで)来社があり、ドタバタしたスタートを切りました。ろくに昼食をとる間もなく、昼からは、大まか工事を終えて、仕上げに入っているインターナショナルスクールの新築工事の定例会議、その後、旧知の不動産会社の社長に須磨に呼び出されて中古物件の改修工事の相談を受け、帰りは元町の一般社団法人職人起業塾の事務局に立ち寄ってから帰社。夕方からは学生さん、出張中のスタッフと続けざまにズームでのミーティングと文字通り息つく間もない慌ただしさでした。

24時間戦う世代。

そんな慌ただしく走り回る印象をオーラにまとい雰囲気を漂わせていたからか、久しぶりにお会いする起業当時からお世話になっている不動産会社の社長に、「高橋くん相変わらず休んでないんかいな?」と聞かれました。そうですね、そう言われたら昔からあまり変わっていないです。と答えて、そういえば、と思い出したのは20数年前下請けの大工工務店から抜けだそうと必死にあがいていた頃のことです。その社長が言われる通り、24時間365日休みなくがむしゃらに働いていた時代があり、当時はほとんど大工として現場に出ていたことを考えれば、働き方というか、その業務内容はずいぶん変わりましたが、時間に追われる暮らしぶりは今も本質的にはあまり変わっていないかもしれないと感じました。

役割と責任がタスクを作る。

20数年前に起業した当時、なぜそんなに忙しく走り回っていたかと言うと、単純にこなすべき役割が多かったからだと思います。大工であり、設計であり、営業であり、そして小さいながらも一応組織の経営者であった私は圧倒的なタスク量に押しつぶされそうになりながらそれらの役割を何とかこなしていたいた様に思います。翻って、今を考えると随分とスタッフも増え、現場に出て作業することもなくなり、図面を引くこともお客様との打ち合わせをすることも滅多になくなりました。スタッフに実務的な役割多くを任せるようになり、ずいぶんと私の時間は余裕ができたはずなのですが、実際はそうなっていないのが不思議です。

器の大きさ。

昨日、このブログで紹介した出口治明さんが書かれた貞観政要の解説本の中に、人の器についての記述がありました。企業はリーダーの器までしか成長することはできない。との原則論から、経営者は器を大きくしなければならないのですが、そこには、おいそれと人間の器が大きくなる事はないと厳しい調子で書かれていました。ではどうすればいいか、と言う問いに対する答えは器は大きくするものではなく、空けるものとの理論を出口氏は提言されており、できるだけ器の中(頭の中)に詰め込んでいるものを捨て去って空っぽにすればまた新たに新しい考え方や知識、技術や人とのご縁を入れられるスペースが出来て、その分、会社は成長することができるとのことです。

器を空ける。

リーダーが器を空にすることとは、今まで積み重ねて信じて疑わない既成概念を打ち捨てること、と出口氏は少し抽象的な表現をされていましたが、私はそれを読んでもっと物理的(時間的に)に空っぽに出来るように考えるべきではないかと感じました。それは。考え方云々よりもまず、現在使っている時間と行動を捨て去り、スペースを空ける事ではないかと思うのです。とは言え、人にはそれぞれ役割と責任がありそれらを全く何のフォローもせずにただ、放棄してしまう事は、職業人としてあり得ません。もちろん、放棄ではなく委譲をすべきで、大きく役割と責任を渡す事が出来れば組織の運営に支障をきたす事なく、リーダーに自由な時間が出来て、新たなことにチャレンジする事が可能になります。リーダーの器が大きくならなくても、強力なフォロアーがいれば、組織は成長できると思うのです。

企業はそこに集う人の器の総計なり。

自分自身を振り返ってみると、20年前とさして変わらず、未だに時間追われて走り回ってはおりますが、起業当時私の仕事の全てだった実務は殆どスタッフが行ってくれるようになりました。そのお陰で、私は新たな事業を立ち上げたり、実務を頑張ってくれているスタッフのフォローや事業の維持継続ができるように組織全体のブランディングに時間を使えるようになったり、職人の社会的地位の向上という創業時の志に向けての事業を、自社だけではなく全国に広げる活動を行えるようになっています。これは決して自分の器が大きくなったのではなくて、私が担ってきた役割と責任を引き受けてくれるスタッフの成長の賜物だと改めて感じた次第です。結局、企業は(そこに集う)人(の総計)なり、という事なのでしょう。

セールス→マーケティング→マネジメント

そんなことを考えて、改めて感じるのは、やっぱりマネジメントの重要さです。創業間もない頃はどうやって売り上げを上げるか、どのように集客するかばかり(セールス)を考えて闇雲に走り回っておりました。その後、先の見えない不安から抜け出す為に持続的に売り上げを上げ続ける仕組み作り(マーケティング)を熱心に学ぶ中で、原理原則に則れば、企業は人なりだ!との結論を得て、17年前に大工の正規雇用化をきっかけに労働基準法の完全適法の運用、人事制度(賃金制度、等級制度、評価制度)の整備、社内でのコーチング研修を皮切りにした個別面談でのスタッフか抱える問題、課題の抽出とその改善のサポート等の運用を繰り返す(マネジメント重視の)事業形態に転換しました。今考えれば全く逆からの組立だったと自分の無知を恥ずかしく思います。。

貞観政要の凄み。

ちなみに、私が主催する建築業界に特化した研修事業、一般社団法人職人起業塾でもサービス開始当初は建築実務者向けにマーケティングの基礎理論を教えて、顧客接点強化の観点から現場起点の生涯顧客創造の仕組みを作り上げるサポートを行っておりました。しかし、上述した通りの自分自身の逆説的な事業構築を行った反省を元に、現在はマネジメント重視の少人数ワークショップの開催を中心に活動を行っており、職人起業塾の卒塾生を中心にマネジメント×マーケティング×ブランディングの三位一体論を元に事業計画づくりのサポートをしています。その中で、感じるのはやはり経営者の器を大きくする事の難しさと、その中身を引き受ける幹部の意識改革の重要さです。
さすがに多くの経営者が勧められる貞観政要、非常に深い示唆を頂けました。継文庫に寄贈下さった川島先生には心より感謝いたします。ありがとうございました。


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3つの鏡 #貞観政要〜古代中国に学ぶ「世界最高のリーダー論」〜

令和2年9月28日晴れ

タイムマネジメントが全て。

神戸は気持ちの良い秋空が広がりました。このところ出張がコロナ前と同じ位に戻ったこともあり、先週はほぼ事務所にいることがなく、その反動で9月ラストの週はぎっしりと予定が詰まってしまっています。今年、私がなかなか上手く出来ないと悩みを抱えるタイムマネジメントの改善で心がけている事は、整える時間をスケジュールの中に織り込むことなのですが、とは言え、次々と入ってくるお声掛けに対して、むげに先送りするのもできなくて、つい、無理矢理予定に入れ込んでしまいます。一旦、予定が詰まり出すと加速度的に過密なスケジュールになってしまい、なかなかタイムマネジメント下手から脱出できません。

インプットとアウトプットのバランス。

研修事業の出張やお客様先での打ち合わせ、プレゼンテーションの機会が多いと言うのは非常にありがたいことで、常に多くのアウトプットの機会に恵まれていると言うことでもあります。出すばかりでは出涸らしになってしまう危機感もあり、アウトプットとインプットのバランスを同じ位に整えたいとの観点から出張の際の移動時間は(本当はもっと仕事をするべきなのですが、笑)できるだけ読書に時間を割くようにしています。最近、四方継の事務所の片隅で運営している「継文庫」なるインターネット図書館に、寄贈本を多くいただいたことが功を奏して、本棚には私が未だ読んでいない本が沢山あり、出張のたびにその書棚から本を持ち出してはインプットに励むようにしています。

読むべき本、学ぶべき概念。

私は基本的に小説しか読まないようにしているのですが、経営者として、と言うより、職業人として知っておくべき素養ととして読んでおくべき書籍があるとも思っていて、半ば義務感に駆られて面白い小説を読むのをぐっとこらえて、ビジネス書の類も少しは読むようにしています。今回の出張のお供は、尊敬している多くの経営者の先輩たちがこれは読んでおくべきだ。と強く勧められていた「貞観政要」でした。古代中国の皇帝が行った政治の要諦を綴った本と言うことで、現代とは随分と時代背景も違うますし、そのまま全て今の生活に当てはまり、参考になる事はありませんが、それでも人心が乱れた時代を、平和にかつ豊かな時代に導いたとされる明君のモノの考え方やあり方はやはり人が生きていく上での原理原則に則っており非常に勉強になりました。

太宗 李世民の教え

歴史に残る明君と称される唐の第2代皇帝、太宗 李世民の言行録であるこの本は、リーダーのあり方、持つべき思想や判断について連綿と記述がされており、後世に偉業を成し遂げた、クビライ、徳川家康、明治天皇などの偉人たちがこぞってそれを読み、参考にされたと言われます。そこに書かれてある内容は多岐に渡り、長大な文章になっているようですが、今回私が手にしたのは、現代の知の巨人と言われる出口治明さんが上梓されたそのコアな部分、インサイトだけを取り上げて解説された要約本です。そして、出口氏が座右の書とされているこの大書の中でリーダーが学ぶべき最も重要な概念は「3つの鏡」を持つべきだと書かれています。

3つの鏡

3つの鏡とはすなわち、「道の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」のことで、銅の鏡とはいわゆる自分の顔を映し出す鏡であり、不機嫌そうな顔、人を寄せ付けない姿をしていないかを自己確認する必要を説かれており、歴史の鏡とは歴史は繰り返すと言われるように、本を読み、先人に学ぶこと、歴史に学ぶ必要性を説かれています。そして、人の鏡とは自分の悪い部分、是正しなければならない考え方や行い等について、広く意見を聞き、諫言を受け入れることの重要性を示しています。特に、太宗 李世民は諫言してくれる重臣を身近に置き、重用した事がつとに有名で、自分にとって嫌なことを言ってくれる人を排することなく、苦言を呈されることに感謝して身近に置くべきだと出口氏は繰り返し書かれておられました。

 

反対勢力ではなく鏡

私も、50代半ばに差し掛かり、若い頃に比べると格段に人から叱られたりダメ出しされる事が少なくなりました。書道や茶道の先生について教えを乞うているときは、当然指導されることも多いですが、こと事業については、曲がりなりにも組織のトップであり、最高責任者である以上、私が判断、決定することが非常に多いのが現実です。ただ、新たな取り組みをするにあたって計画を発表すると、意外と反対意見やダメ出しをスタッフから出されることが多くあります。改革を推し進めようとする私の計画の問題点を指摘されたら、やもすれば反対勢力だと感じてしまいかねません。

古典は古典に学べ。

しかし、それも「人の鏡」だと思えば、会社のことを考えての諫言であるかも知れず、私はもっと喜んでそれらの意見を聞き入れなければならないのだと改めて考えさせられました。時代が大きく変わろうとする現代において、古めかしい古典を学んだところで、劇的な時代の変化に適応できるかと言うと非常に疑問が残る。と言う意見もありますが、シェイクスピア読んで未だに現代人が涙するように、10,000年前から大して人間の脳は進化してないと言う見方もあり、原理原則もしくは人間の営みの真理に基づいて、古来から長年引き継がれてきた古典の教えには、やはり学ぶべきところがたくさんあると思った次第。貞観政要、私としてはそのうち全文読破にチャレンジしたいと思いますが、まずは要約本でも一読されることを強くお勧めします。(笑)


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全てのものは二度作れ!と、モノづくりの原理原則。 #若手大工育成プロジェクトday6

令和2年9月26日晴れ

建て方実習day2

昨日に引き続き、今日も久留米で若手大工育成プロジェクトの建て方実習2日目でした。昨日、延べ床5坪ほどの小さな建物ではありますが、ほとんどが未経験のメンバーたちで無事に棟上げ、屋根の垂木を流すところまでを終えて、今日は野地合板を貼り付け、破風板を取り付けてルーフィングを敷き込むまでの屋根仕舞と、筋交いや間柱、窓かまちなどの羽柄材、構造金物を取り付けるところまでが予定の工程でした。今日も、作業内容や、手順等を私が座学でレクチャーした後、各工程を細かく区切り、役割分担とタイムスケジュールを自分たちで考えて計画してもらいながら、実習作業時には私は一切口を出さず、自分達で考えて作業を進めてもらいました。一工程の作業が終わる度に1つずつ確認と検証を行いながら、予定通りすべての工程を終えることができました。

全てのものは二度作られる。

今回の建て方実習の研修で、私が最も力を入れて受講生の若者たちに一生懸命伝えたのは、「すべてのものは2度作られる」と言う、スティーブン・R・コヴィー博士がその著書「7つの習慣」の中で書かれていた概念で、建築に携わる者こそがこの考え方を深く理解し、実践しなければならないと熱を込めて語り続けました。1度目の創造はイメージの中での想像であり、これができないとものづくりを生業とする仕事は絶対にうまくいかない、この業界で生きていくなら、職人に限らず、設計でも営業でも、イメージを詳細に、正確に作り上げる技能を身に付けてもらいたいと、様々な例を挙げてしつこい位に伝えました。

ディティールに神が宿る

私は30過ぎの若かりし頃、1人親方の手間請大工としてプチ独立を果たした時、毎晩寝る前に明日の現場で行う作業を詳細に頭の中でイメージし、翌日現場に到着してからそのイメージ通りに作業を進める事を習慣として定着させて、一気に作業のスピードが速くなった経験を持っています。詳細にイメージするとは、ぼんやりした部分を全て明らかにすることであり、考えてもわからない事は図面を見て調べたり、親方に事前に聞いたりして現場で頭を抱えて考え込むような事がないように心がけていました。一人きりで現場を進めるのに、わからないことが出てきて手が止まってしまうとそのまま収入減に直結する危機感のもと、必要に迫られて身に付いた習慣ではありましたが、その時に改めて気がついたのは、いわゆる尊敬を集める「仕事ができる職人」は現場で図面を見ることなどなく、全て頭の中に叩き込んでから作業に就いていると言う事実でした。細部を完全に把握しきった職人は神がかっているように見えたものです。

モノづくりの原理原則。

もう一つ私が熱く語ったのはものづくりの原理原則についてです。それは、「どのように作るか」「何を作るか」よりも絶対的に「何のために作るか」を常に最重要に考え、すべての仕事はそこを基準にして進めてもらうように。と言うことです。建築会社で働いていると工事は毎日の日常であり、つい、決められた手順通り、最低限の品質を守ればそれで良いだろうと言う感覚になってしまいがちです。工事を発注してくれた相手が人生最大の買い物と言われる位の大金をはたき、自分の命さえも担保に入れて融資を受けて行う、その人にとっては人生の一大イベント、大事業であることも、どのような想いで家を建て、手に入れようと考えたか、など考えることすらなくなってしまっては、お客様の期待に応え、満足を得ることなど到底できません。自分のその日の日当だけ稼げればそれで良いと思うような職人に、大事な現場をまかす事は絶対にできないのです。

イメージ力と状態管理が凄い職人を育てる。

今回の建て方実習はカリキュラム的には技術的な側面が前面に押し出されており、実際に建物を建ててみることによって、全体の流れを知り、若い見習い大工が現場で活躍してくれるようになることが大きな目的とされています。ただ、私としては「やり方」は「在り方」の後に来るものだと思っていて、研修は普段あまり考える事のない、職人として、もしくは人としての在り方を考える場にするべきだと考えています。何の為にこの仕事に従事するのか?という問いを切り口に在り方を考えると共に、工事に着手する前に曖昧なところ、詳細を明らかにして細部まで把握してから仕事に取り掛かる建築的思考を体感してもらう事で、イメージを作り、シュミレーションを行い、準備を万端に、そして普段から良い状態を整える習慣を身につけてもらえたら、5年後、10年後は凄い専門職として大活躍してくれる人材になると思うのです。現在、講義を行っている「人にやさしい家を考える会」の若手大工育成プロジェクトに参加してもらっている若者達にはこの半年間で何としてでもその足がかりを掴んでもらいたいと思っています。みんな、頼むよー。(笑)


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謹呈 7つの習慣。〜若手大工育成プロジェクトday5〜

令和2年9月25日 快晴

建て方実習2days

「それにしてもよく降る雨やなあ。」と思わず独り言が口をついたほど、終日降り続けた昨日の激しい雨は何処へやら、 久留米の羽犬塚出迎えた朝は気持ちの良い秋晴れが広がりました。今日から2日間、研修講師を引き受けている、JBN(日本工務店協会)の地域団体である一般社団法人「人にやさしい家を考える会」主催の若手大工育成プロジェクトでは建て方実習を行う事になっており、私も泊まり込みで指導に当たっています。この研修では入職して間もない(3年未満)の若手大工や設計、営業などに携る若者達に、建築業界で働く意味と意義、そして社会人、職業人として必要な心構えや在り方と共に、実際に小さな建物を建てる現場実務を経験することで、一気に成長スピードを速めて貰うきっかけにするのが目的で、今日の上棟はその中でもクライマックス的な一大イベントです。

体験ではなく「経験」

私は、今回の研修で、実習生達に「体験」ではなく「経験」を身につけてもらいたいと思い、その様に彼らにも伝えています。その違いとは、指示された作業を言われた通りに正確にやり遂げるのではなく、事前に講師である私が方法や手順を伝えるコミュニケーションはしますが、現場では一切口出しせず、自分たちで段取りと役割、そしてタイムスケジュールを話し合い、その目標に向かって助け合いながら作業を進める事、そしてその結果を検証し、アウトプットして共有することで、ボーっとしていたらお客さんになってしまう研修を確実に自分ゴトに転化して経験になる様にしてもらっています。私は経験とは自分で考え計画、行動し、その後に良かったこと、改善すべき点を振り返って成功体験と反省をアウトプットすることだと思っており、その持論を研修にそのまま反映させています。

段取り8分とコミュニケーション

とはいえ、3年目でそこそこできる若い大工もいますが、殆どが素人集団なので、座学で説明しただけで「後は思う様にやってみ」と任していてそんなに上手くいく筈がありません。そこで、作業を小割りにするのと、何を行うのか?という作業内容に対する理解を深める為に、作業工程を小割りにして、プレカット施工図面の見方とその意味、柱、梁を組み立てる順序から立ち(柱の垂直)を見たり、仮筋交いを打ち付けたり、金物を締めたりとそのそれぞれについて一つずつ説明をするとともに、グループごとの役割分担と作業時間を話し合わせてから作業に取り掛かってもらいました。上棟を終えた後に彼らに感想を訊くと、事前の段取りの大切さ、作業中の手助けが全体の工程を推し進める、全体最適(全体勝利)の考え方と結局のところ、事前、作業中を含め、コミュニケーションが最も重要であるという事に気付いてもらえた様でした。

職人は道具じゃない。

今回、若手大工向け実務者研修の講師を引き受けるに当たって、私は若い大工は道具じゃない、便利に目先稼げる様に「やり方」を教えるだけでは絶対的にダメで、そんな研修を行ったところで、歩留まり3分と言われ、7割の若者が転職してしまっていた大工育成塾と同じ轍を踏む事になる。絶対に大工として働く意味と意義、自分たちが持つ可能性、そして、未来への希望を持てる様なマインドセットを伝えることが必要だと、事務局の方々に伝え、「塾長の思うままにカリキュラムを変更してもらって構いませんから」との言を得て、今回の半年、12回にも渡る若手大工育成プロジェクトの講師を引き受ける事になりました。そんな経緯があり、実習研修だった今日も、朝は教室の机に座ってもらい、前回までの振り返りと共に、一人ずつ自分自身で決めてチャレンジしてもらっている「新習慣」についての進捗発表をしてもらいました。

目的意識が何より重要。

とにかく、私は、技術や知識といった専門職としてのスキルは勿論大事だし、若者にはその研鑽が特に必要だと思っていますが、それよりもずっと大事なのは目的意識であり、「今、金、自分」に価値観の重点を置く様な者に一切何も教えたくないし、付き合いもしたくないと思っています。そして、それは3人のレンガ職人の寓話にある様に、100人聞いたら100人ともが、「金のためにレンガを積んでる職人」や「とにかく大きな壁を美しく積む技術だけに特化した職人」よりも「街の人々が幸せになる体験を味わえる大聖堂を作るんだ」と人の幸せのためにいい仕事をしたいと考える職人に仕事を頼みたい、一生付き合いたいと思うと思っていて、私の研修を受ける若者達は全員、3人目のレンガ職人となって引く手あまたの行列ができる人気職人になってもらいたいと思っています。

謹呈、7つの習慣コミック版

そんなこんなで、(実務研修だと思って参加した研修生達がどう思っているかわかりませんが、笑)毎回、研修のはじめには職業人としての「在り方」の話と、習慣を身に着けることの大切さをくどいくらいに訴えています。そんな研修を一番後ろのオブザーバー席で見られている事務局の責任者である高藤部長が、前回、終了前の挨拶で若者達に発破をかけられ、習慣の必要性と破壊力をもっと全員に深く理解してもらいたいと「7つの習慣(コミック編)」を全員にプレゼントします」と太っ腹かつ男気のある素晴らしい提案をしてくださいました。それもにこやかな顔でさら〜と言われていたのですが、今日、研修会場に入ると研修生達の机の上に「謹呈」と印字された熨斗がついた7つの習慣の漫画が配布されていました。九州男児は本当に熱かです。

同じ志。

研修生全員に習慣の大事さ、私が繰り返し口にする原理原則の重要性を理解してもらいたいと大盤振る舞い(しかもさら〜っと)された高藤部長の決断と行動をかっこいい!と思いながら、「謹呈」と改まった熨斗が少し気になりました。研修を終えた後、食事をご一緒させてもらう事になり、その話題を振ると、高藤部長から意外な言葉が返ってきました。曰く、「実は家の近くに中東で人道支援のボランティアを熱心に行われていた中村哲さんが住まわれていて、ひょんなきっかけで知り合いになったんです。素晴らしい活動をされているのに心から尊敬しながら、我々が地域活性化の為に地場工務店の支援に取り組んでいる「人にやさしい家を考える会」のパンフレットを渡したところ、中村哲さんに私もあなたも同じことをやっていますよね。と言われて、大いに感激したことがある。そしてそれをきっかけに中村哲さんの自著をプレゼントされ、私の人生の全てが書いてあるので参考にしてもらえたら幸いだと言われて、大いに感激したとです。」とのことした。

ご縁は宝物。

残念ながら、その数ヶ月後に中村哲さんはいわれのない銃弾に倒れその生涯を閉じられ、それが最後のやりとりになったとの事でした。その中村哲さんからプレゼントされた書籍の表紙をめくったところに、「謹呈」と書かれており、謹んで呈します。との文字に込められた中村哲さんの謙虚さ、器の大きさ、人間としての素晴らしさに心を打たれたとの事でした。そんな密かで大事な経験を踏まえた上で、高藤さんは、若者達に私がバイブルにしていると繰り返ししつこく勧めていた書籍をプレゼントするにあたり、上から目線ではなく、奢る気持ちなど微塵もなく、まさに謹んで、彼らがこの研修をきっかけに素晴らしい未来を手に入れてくれることを祈りつつ呈するとの想いを込めて、贈られたとの事でした。そんな熱か男達がいる九州、関わらせてもらっている私まで心に火を点けられます。同じ志を持つ人達とのご縁は本当に宝物。私も出来るだけの支援をさせてもらいたいと胸に誓う夜になりました。皆様、引き続き、よろしくお願いいたします。


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応急仮設住宅工事の意義と全体勝利主義 #くまもとの力

令和2年9月24日雨

隔週の九州巡業

またまた九州巡業に来ています。今日も早朝に起き出して朝のルーティーンを済ませた後、新幹線に飛び乗って一路、熊本の新八代へ。新幹線の駅前でレンタカーを借りて、一昨日から先行してつむぎ建築舎の精鋭4名の大工スタッフが応援にきている球磨川村の災害復旧仮設住宅の現場へと車を走らせました。球磨川の現場の後は、八代に戻り、今夏の水害被害がひどかった八代市に拠点を置かれている堺建設さんが施工されている古閑中の仮設住宅の現場にも陣中見舞いに立ち寄り、職人起業塾の卒塾生の三山大工と第14期の講座終了以来、初めて顔を見てカツを入れつつも、頼もしい姿を拝見することも出来ました。夕方からは熊本に移動、クライアントが管理されている土地の確認に行った後、明日からの筑後での若手大工研修に備え、いつもの羽犬塚のホテルに入りました。文字通り九州巡業、忙しい1日となりました。

災害は忘れた頃にやってくる

現在、つむぎ建築舎の大工スタッフも応援として従事している球磨村の仮設住宅現場ではファイヤー村田こと、熊本で大工による手刻みへのこだわりとブログによる情報発信で有名な工務店、株式会社村田工務店の村田社長にご案内頂き、総数800戸近くの応急仮設住宅(とはいえ建設型なので基礎もある高断熱木造住宅)を7月の水害からたった2ヶ月少し、10月の初旬には全て完工させるという、常識では考えられないスピードで進められている今回のプロジェクトの経験談をお聞かせ頂きました。熊本の震災から始まった、災害復旧の仮設住宅を劣悪な住環境になってしまう軽量鉄骨のプレファブ住宅から高い居住性を備えた木造住宅にシフトしようというムーブメントは徐々に全国に広がりを見せており、私が所属する京阪神木造住宅協議会でも兵庫県との災害協定を結んでいます。万が一、被災地となった場合には今回の熊本と同じように私達も即断即決で仮設住宅の建設に取り掛からなければなりません。毎年、酷さを増し続ける自然災害の脅威を考えたら、今の内から応急仮設住宅の実務を把握しておく必要が少なからずあります。

目的共有と全体勝利

7月4日に豪雨災害が発生し、その後わずか2週間後には敷地を確保して地縄を貼り、9月末を目標に800個近い仮設住宅を全て木造で建てられる今回のプロジェクトの中でも、最大の規模を誇るのが本日私が訪れた球磨村総合運動場での113戸の工事です。コロナの影響もまだ強く、県外をまたいでのボランティアも制限されていた中、10月5日の完了検査で全てを完成させるところまでこぎつけられた圧倒的な施工能力には驚かされるばかりでした。灼熱の炎天下の下、基礎工事からつきっきりで現場で指揮を揮ってこられた村田社長は、真っ黒に日焼けして、ずいぶん精悍な雰囲気の現場仕事人の風情に変わっておられました。今回、このプロジェクトをなんとか成功裏に導けたのは熊本地震のときの経験から、集まった職方をグループ分けするのではなく、全体勝利を目指すと言う考え方を持って、臨機応変に配置を変えてもらったこと、そして、朝礼で何のためにわれわれは仮設工事を行っているのか、その意義は何か?と目的の共有を繰り返し熱い口調で行ったことで、職方の理解を得たことが大きいと語っておられました。

誇りを持てる仕事

私自身も、阪神淡路大震災の後は、職人としてずいぶんと仮設住宅の工事に従事しましたが、それはすべて大手プレハブメーカーの下請け職人としてで、冬が寒く、夏は暑い掘っ立て小屋のような仮設住宅を建てる作業を、非常時だからしょうがないと思いながらも、あまり意味も意義も考えずに、淡々と決められた作業を進めていたような覚えがあります。それに比べ今回の八代豪雨災害での応急仮設工事はすべて木造住宅で、全建連と地元の工務店が連携を取り地域の安心と安全を守るのは我々の役目だと言う使命感を持って取り組まれており、以前のおざなりのプレハブ住宅とは全くその価値が違うと感じました。どんな建物を建てても結局工事するのは職人であり、作り手が誇りを持てるような建物を作ることの大事さを改めて目の当たりに見て、深く感動させられました。紡ぎ建築者からの応援は今月末までの予定でしたが、完了検査までの工期が厳しいのを見て、少しだけですが応援滞在を延期させて貰います。豪雨災害に遭った方々が、1日でも早く快適な暮らしを取り戻せるよう、微力ながらお手伝いさせていただきます。村田社長、引き続きがんばってください。遠く神戸から応援しております。


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付加価値を生む職人マネジメントのロジック #当たり前の積み重ね

令和2年9月23日曇り

彼岸明け。

秋の大型連休、シルバーウィークの4連休が終わり、世間様も動き出し忙しい日常が戻ってきました。とは言え、私はこの四日間も別に休みを取って遊びに行ったわけでもなく、最近やたら多くのお問い合わせをいただいている新築のお客様との打ち合わせや敷地調査に走り回り、唯一昨日、京都から滋賀へと遠出しましたが、これも着工中の現場確認とお客様へのご挨拶でした。ただ、昨夜の夕食はスタッフとともにお客様に手配いただいた瀬田川沿いの料亭で滋賀ならではの料理とお酒をご馳走になり、楽しい時間を過ごさせていただくとともに、少しだけ休み気分を味わうことができました。H様いつもながら過分なお心遣い、心より感謝いたします。

木造中学校新築工事完了検査

今日の昼からは新築工事中のインターナショナルスクールの建築確認申請の完了検査があり、私も検査立ち会いに現場へと向かいました。当初の契約時に取り決めていた契約工期よりも、ひと月近く短縮して完了検査の日を迎えられた事は、契約時に出来る限り工期短縮に努力します、と言っていた私としても非常に嬉しく、最低限ではなく、最大限クライアントの意向を叶える努力をしてくれた担当の大工の大ちゃんを始めとしたスタッフや関係業者の方々に心から感謝するばかりです。また、多様性と共生をコンセプトに掲げた今回の建築はDIYの工事も多く、学校関係者とともに工事を進め、言葉の壁を越えて良好な関係を築きあげてくれたのには、本当に頭が下がります。中途半端に私が口出しせず、現場担当者を信じて、任せ切ることの重要さを改めて感じさせられました。

大工の定義

我々つむぎ建築舎では、現場代理人、施工管理を社員大工が務めます。今回の学校建築のような大規模な案件になると、毎日10人近くの大工が現場に入り、他の専門業者の職人さんと入り乱れ、全体の工程の段取りをするのさえなかなか大変な上に、言葉があまり通じないアメリカ人のクライアントとの窓口も勤め、日々コミニケーションをとりながら、自分自身でも作業を進めなければなりません。世間一般で言う大工の仕事に比べると、全く違うレベルの仕事量こなしてもらわなければならないのですが、私たちの大工の定義は現場の全責任を一身に引き受け、クライアントの期待値を超える建物を作ることとしています。要するに、大工は決められたことだけをこなす作業員ではなく我々の事業の目的の1つである圧倒的顧客満足をマネージメントするリーダーだとしています。

現場コミュニケーションが全て

私たちものづくり企業である工務店の評価は、現場でしか得ることができません。その結果の良し悪しで、未来に受注する仕事の質と量が決まるわけで、現場担当者に我々の未来を託していると言っても過言ではありません。そして、工事の規模が大きくなればなるほど、着手前に図面やパース、模型などでイメージの共有をしているつもりでも、あやふやな部分が残りがちで、着工した後のコミュニケーション量が顧客満足に大きな影響を与えます。現場叩き上げの私としては、着工後、顧客が持つイメージの確認と、ギャップをどれだけチューニング出来るかが、「これからもずっと御社にお願いします。」と言ってもらえるレベルでの顧客満足を勝ち取れる肝だと思っており、工期、工事品質と共に現場でのコミュニケーションが何よりも重要だと思っています。

マーケティング×マネジメント一体論

そのような現場主義の持論から、社員大工による施工、施工管理にこだわり、長年、大工の育成、意識改革に取り組んで来ておるのですが、その根本は20年前から様々な学びを続けてたどり着いたマーケティングとマネジメントは一体であるべきだとの考え方です。先行き不透明、不安定な時代にこそ原理原則に立ち返るべきだと言われますが、当たり前の思考を繰り返すことで見えたのが、大工に経営者と同じ意識を持ったマネジメント層にまで成長してもらう人事制度(賃金制度・等級制度・評価制度)と教育制度の構築と運用でした。未だに完成したとは言い難いですが、それでも工期の厳しい現場を顧客の期待に応えて納め、着工後の変更のコスト管理までしつつ、学校のフェンスにバナー広告を取り付けても良いと顧客言ってもらう位まで信頼関係を深めてくれている姿を見ると、目的達成へのコミットメントをしてくれていると感じます。
連休中にチカラボに寄稿した記事はこちら→マネジメント改革無くして市場の創造なし。

ものづくり企業の原理原則論

当たり前のことを当たり前に行うことこそが難しい。とよく耳にする言葉ですが、これが真理とするならば、私のような身体が丈夫な他に何の取り柄も無いような職人上がりの経営者でも、難しい理論をこねくり回さなくても事業を行える可能性があるのでは?と一条の光を見出したのは、世界で最も多く読まれたビジネス書と言われる「7つの習慣」を読んだ時でした。そこに書かれている当たり前のことを積み重ねた結果が私にとっては大工の正規雇用であり、作業以外の付加価値を生み出す社員大工の育成であり、現場マネジメントとマーケティングの構築です。私たちが取り組んできた当たり前のロジックを以下に整理してみます。深刻な職人不足解消の足がかりとしていただければ幸いです。

完工なくして売り上げなし。

→高い評価を元にした地域での信頼がなければ受注なし
→建築業は現場でしか評価を得られない。
→図面や仕様書、見積書等で完成イメージの完全な共有は出来ない。
→顧客満足を得るには現場での確認、調整、コミュニケーションが不可欠
→顧客からの評価が職人の評価(報酬)に直結すべき
→顧客と職人に利益の相反があってはならない
→職人は事業所と同じ立場で、顧客と同じ目的を持って工事を行うべき
→最も多く工事の割合を占める大工が社員として顧客に相対するべき
→大工は現場での全ての窓口を受け持てる知識と技術を身につけるべき
→大工が資格取得、施工管理、コスト管理、顧客窓口業務を行えば付加価値を生まれる
→高い付加価値を生む大工は所得を増やすべき
→安定した暮らしを営む職人こそが安定したサービスを提供出来る
→職人が未来に希望を持ち、安定した豊かな暮らしをしていなければ若者の入職は無し


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マネジメントが機能しない理由。#マーケティングマネジメント一体論

令和2年9月19日晴れ

シルバーウイークはWS三昧

秋の大型連休、シルバーウィークのスタートの日。世間様では4連休の初日との事ですが、相変わらず私にはあまり関係なくて今日も朝から夜までぎっしりと予定が詰まっており、おかげさまで忙しくさせてもらいました。事務所ではさとーくんがエントランスのサイン工事に奮闘しており、新しくなったロゴの施工写真と共にお送りします。(笑)
午前中は新築をお考えのお客様にお越しいただき、スタッフと一緒にカスタマージャーニーマップのワークショップを行いました。ヒアリングシートでいただいていたご要望には、コンパクトで快適な住宅を書かれていましたが、日々の暮らしの中で感じておられる些細なストレスや、新しい住宅での過ごし方を強烈にイメージされている部分が明らかになり、これからプランを立てるにあたり、非常に有意義な時間になったと思います。

マネジメント改革WS

昼からは、一般社団法人職人起業塾で今年から新たにスタートしたものづくり企業への支援事業、インナーブランディングの3つ目のステップであるマネジメント改革の進化したマインドマップを使ってのワークショップの補講を行いました。ブランディングの基礎であるインナーブランディングでまず初めに取り組むべきは、人事制度の整備であり、役割と責任と報酬の関係をつまびらかにする等級制度を導入して、マネジメント層と呼ばれるリーダー、もしくはリーダー候補にやるべきこと、進むべき道を明確にしてもらうことです。このステップでは人事制度改革をスタートしてもらった企業に運用のステップとして、マーケティングとマネジメントの両面から事業の全体像をを把握してもらうことで事業計画の刷新を図り、経営者とリーダー層が一体となって取り組む体制を整えてもらって事業計画の実施スピードを早めてもらうまでを目的にしています。

リーダーシップとは他者の課題を引き受ける器量

今日の補講の冒頭の説明で、「人の器の大きさ」についてを研修を受講する上でのマインドセットの1つとして話しました。事業を行っていく上で、時にキリがないとさえ思える、ビジネスモデル構築の為のタスク、数々の課題はその殆どが経営者の課題になってしまっています。リーダーシップを発揮するとは、一見、他者の課題として割り切ってしまいそうなことを、自分自身の課題として取り込む器の大きさをさしており、経営者の課題だけではなく、同僚や後輩の課題を解決すべくモチベーションを燃やすようなリーダーになってもらいたいとお願いしました。事業の根幹と言われる人事制度、その改革の目的は役割と責任と報酬を明確に示し、従業員さんに自分の努力、取り組み次第で役割を広げて、未来を切り開くことが出来る事に気付いてもらう事にあります。そして、役割を引き受けると自ら手を上げるリーダーを生み出し、経営者と力を合わせてビジネスモデル構築のためのタスクを片付けてもらいたいと思っています。

マーケティングマネジメント一体論

事業を存続させる売り上げ、利益を生み出すマーケティング、そしてそれを支える組織を運営するマネジメントは常に表裏一体で、密接な関係を持っています。私たち職人起業塾のコミュニティーではマーケティングとは「市場の創造」と定義しており、新規顧客創造と既存顧客との信頼関係構築によるLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を引き受ける仕組みづくりを指しています。そして、VUCA化と言われる外部環境の激しい変化にさらされる今の時代には、競争が激しい新規顧客の獲得よりも、一度購入してもらった事のある既存顧客からのリピート、紹介を重視するべきであり、中長期の視点を持ってLTVを引き受ける事で安定的な経営の基盤を築くべきなのはごく当たり前の選択だと思います。

マーケティング実行のの主体は顧客接点

新規顧客の創造は本来、同業他社が行えていない問題解決を提案する事で成り立つもので、社会を良くするイノベーションがその根底にあるべきで、これはおいそれと誰にでも出来る訳ではありません。中小零細企業にあっては経営者がその役割を担うことが多いというか、殆どだと思います。翻って、既存顧客との信頼関係の構築は全ての顧客接点に鍵があり、それは逆に経営者にはカバーしきれず、従業員に任せるしかないのが実情だと思います。このように考えると、マーケティングは従業員が担い手の中心であり、実践者となります。従業員の考え方やスキル、人間性がそのままマーケティングを支える資源であり、その成長こそが企業の成長に直結することになります。やっぱりマーケティングとマネジメントは表裏一体なのです。

マネジメントが機能しない理由。

マネジメントの実務を細分化すると、人事制度(賃金制度、等級制度、評価制度)の構築から始まり、人材採用、人材育成とそれを支える教育制度、そして同じ目的を共有し、目標達成を繰り返すことができる組織作りとその運用となります。特に、チームで戦うにはゆるぎない目的意識を全員が持つ事が不可欠で、事業の目的=経営理念を全てのメンバーがあらゆる業務で体現する事、その実務のチェック(Ex,顧客アンケートなど)と検証、改善がマネジメントの最も重要な部分になると思っています。このように並べると、一言にマネジメントと言ってもそのタスクは多岐に渡り、大企業のようにそれぞれに専門の担当が配置されていればまだしも、そうでない中小零細企業では経営者一人がマネジメント担当として奮闘されていることが殆どですが、一人では到底手に負える代物ではないのは誰の目から見ても明らかだと思います。これが、私達が、経営者と同じ志を持って、マネジメント層に入ります、と言ってくれるリーダーを育てるマネジメント改革を行なっている理由です。

進むべき道が拓けた。

今日のマネジメント改革のWSを終えて、焼肉懇親会への移動する道すがら、職人起業塾の卒塾生で中堅の大工であるOさんに感想を聞いてみたところ、「社長のやっている事の全体像が見れて、それがなぜ必要かを話してもらう機会が出来て良かったです。」と言っておられました。そして、「大工として現場で働くだけでは先が見えていたし、後輩を引っ張る立場になって来たのに、自分がどん詰まりでは下の者に希望を与える事が出来ないので悩んでました」と言われていました。そして、「今回のWSに参加して、社長がなぜいつも一生懸命に学びに出かけるのかも分かったし、自分も役割を買って出て、新しい道を進もうと思う」とのことで、私が伝えたかった事が、ダイレクトに伝わり、それが一歩進んだのを実感する事が出来ました。これから年末まで、忙しい中、厳しい宿題がてんこ盛りで大変だと思いますが、来年からの建築業界淘汰の時代に備え、事業の根幹をしっかりと固めてもらいたいと思いますし、私も一緒に取り組んで行きたいと思います。本日は連休の初日から、お疲れ様でした!(笑)


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残酷な世界で絶望に向き合う。#進撃の巨人

令和2年9月18日 曇り

日々是朝活

今朝も夜明けと共に起き出して、秋っぽい涼しい風が吹く中、アイドル犬チャックと早朝のお散歩。筋トレなどの朝のルーティーンを済まして7時からは大工スタッフとの早朝1to1mtgを行うなど、すっかり朝活な一日のスタートを切りました。昨日は弾丸東京出張から遅くに帰宅した後、深夜遅くまで掛けて漸く、進撃の巨人のNetflix版を公開されている最新のエピソードまで片付けました。このところ、すっかり動画配信サービスにはまり込んでしまい、劇的に読書量が減ってしまっているのですが、これで漸く積み上がった読むべき本に手をかける事が出来ると一安心。進撃の巨人の原作はまだ完結しておらず、先の展開が気にはなりますが、ひとまず、世界を隔絶する壁をテーマにした物語も外の世界とコンタクトする所まで進んだし、ちょっとした達成感を味わっています。

世界に冠たる日本のアニメ

それにしても、一度は単行本を大人買いして読みかけていたのに、中だるみしてしまい、放置していた漫画を、TVで芸人さんが熱心に紹介しているのを聞いて、改めてNetflixで見てみたのですが、進撃の巨人にこんなにハマるとは自分でも意外でした。私はどちらかと言うとアニメ作品よりも原作派だったのですが、鬼滅の刃といい、キングダムといい、今回の進撃の巨人といい、日本のアニメのクオリティは独自の進化を遂げて原作を凌駕するレベルまで進んでいるのかもしれません。特に今回の進撃の巨人は原作を読んであまりピンと来ていなかったのが、怒りや憎しみ、悲しみ等、人間が生まれ持ってきた業について、丁寧と言うよりはくどくしつこい位まで繰り返し問いかけ、人が感じる幸せや、苦しみに対する本質的な部分を問い掛けられているように感じました。

戦うのをやめた王

それにしても、(まだ途中ではありますが)進撃の巨人のストーリー展開には本当に驚かされました。人類の平和を維持するために構築されたとされる壁が同時に人々の自由を奪い、かりそめの安全と引き換えにあらゆる好奇心を押し殺し、未来を考えることをやめてしまい、その場限りの享楽に身を委ねる様は、今の平和ボケした日本人の姿と重なてみてしまいました。あまり書くとネタバレになってしまいますが、戦うことを放棄した王が壁の中に閉じこもり、いつか侵略されて滅亡するのを分かった上で何も考えず、何も手を下さず、かりそめの平和に身を委ね、それを信じる民衆と共に滅びることを享受する様は、若者を受け入れての職人育成もその前提となる労働環境の整備もせず、ただ目の前の受注に血道をあげ、毎年の決算報告で利益を上げることにのみ集中している今の建築業界を彷彿とさせます。

この世界は残酷だ

そして、その不条理に気づいた一部の者が壁の外の巨人と対峙して戦う道を選び、残酷すぎる戦闘を繰り返してやっと、巨人に支配された領土を奪還し、自由を手に入れるべく外の世界に踏み出した結果、そこに待っていたのは底知れぬ絶望だった。というところで進撃の巨人のNetflixの動画アニメは一旦終わりを迎えています。物語の中で、登場人物が繰り返し口にするのは「この世界は残酷だ」とのセリフで、それがこのような形で帰着するとは思っても見なかったし、作者はなんて酷い結末を考えたんだ、とため息が出ました。しかし、考えても見れば、私たちが生きるリアル世界でも実際は、同じような残酷さがそこいらに存在しており、それに目を向けていないだけかも知れないとも考えてしまいました。

絶望。

このところ、新型コロナの感染者数は相変わらずの横ばいで、さすがに新規感染者数の上下で一喜一憂する風潮は落ち着いてきました。その代わり、メディアで熱心に報道されるのは、経済への深刻な影響と、先の見えない不安感です。私達はなんとかコロナ前と大きく変わらず忙しくさせて頂いておりますが、飲食業界、観光業、アパレルなどの小売業、インバウンド需要の受け皿、そして海外との人材交流の事業など、人が動かないと商売にならない業態では、ウィズコロナで新たな生活様式を定着させるとの世界各国の政府が示す方針を目にして絶望感を抱いたと思いますし、日を追うごとにそれは深刻さを増してるのではないでしょうか。世界の大きな変化に適応出来なければ死ぬしかない、現実世界もまーまー残酷です。

絶望のトレーニング。

新型コロナ感染症による日本国内の死者数は現在の累計で1495人、対して警察庁発表の令和2年8月中の自殺者数(速報値)は1,849人。この統計を見ると、いかに世界に絶望して自分自身で命を断つ人が多いかに愕然とさせられます。実際、私の周りでもコロナで世界が分断され、細かな事情はさておき、若くして亡くなられた方がすでに複数人おられます。目を向けていないと気付きませんが、この世界は漫画やアニメの世界と比べて遜色ないくらい実際に残酷なのかも知れません。進撃の巨人の主人公エレン・イェーガーが絶望の先にどの様に考え、行動するかはさておき、私達もこれから繰り返し絶望感にさいなまされる事になるのも想像に難くなく、その時に自死を選ぶのではなく、やっぱり目に見えない、漠然とした恐怖に対して立ち止まらずぬ進撃したいと思います。その時の為のトレーニングとして、進撃の巨人、読まれておくことをお勧めします。普段あまり考えることのない人としての尊厳について、改めて考えさせてくれる名作です。


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コロナ禍のリフォーム業界に求められている事。#やり方ではなく在り方

令和2年9月17日 曇り

世界は変わった。

今日は久しぶりの東京へ。10月から着工する南青山のアパレルブランドのショールーム改装工事の着工前打ち合わせに向かいました。少し前に菅新首相がコロナ問題は東京の問題だと口を滑らして物議を醸しましたが、実際、地方都市から見るとダントツでヤバい場所に見えていたのは確かで、本当は人口比からすると大したことはないのですが、先月までは私も東京(関東)での工事の依頼に対して、若干の躊躇があり、スタッフに工事に行かせるべきか、断るべきか悩んでおりました。依然、コロナ禍が収束したかというとそんなことはないのですが、ウイズコロナの世界で生きていかなければならないのが世の中に浸透してきた事もあり、来週からは熊本の災害復興の仮設住宅の応援にも行く事ですし、そろそろと広域の仕事も進めていかねばと覚悟を固めました。世界が変わった事を認識して、いつまでも悩んでいるのではなく、前に進む時期に来たと思うのです。

新たな細菌感染発生!

昨日の第85回「継塾」の冒頭でも紹介しましたが、昨日のニュースでまた中国の甘粛省の医薬品工場から感染症のブルセラ症の原因となる細菌が漏れ出し、付近の住民ら3000人が感染していたとの報道がありました。今回、世界中を恐慌に陥れ、世界を変えてしまった新型コロナはこれまで人類が戦ってきた細菌と比べて大したことは無く、問題は進みすぎたグローバリゼーションと必要以上に不安を煽り、拡散する情報伝達の技術革命であり、ひょっとすると、同じような感染症の恐怖が毎年のように発生するかも知れません。感染症以外でも、気候変動、地震等、世界はリスクに満ちており、それらに怯え、足を竦まして固まっていても、何らいいことは起こりません。現実にしっかりと向き合い、受け止め、リスクを避けながらも行うべきことを粛々と進めていくしかないと思います。https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000193317.html?fbclid=IwAR0bVUBBYqzSuISHj_6cAfeevEPnLyGN-Epz28dy97akNt-Wr1xTe0Rg5kY 

業界紙報道部長からの取材。

南青山での打ち合わせを終えたあとは、少し前に連絡をもらっていた某有名住宅業界専門誌の報道部長と約束をしており、東京駅近くのプチラグジュアリーホテルのカフェで打ち合わせでした。打ち合わせが少し長引いたのと、東京の土地勘が無いのも合わさって少し遅れてしまったところ、カフェなのに、利用時間は2時間と決められており、時間になるとさっさと追い出されてしまいました。東京は本当に恐ろしいところです。(笑)
取材を申し込まれた内容は、とある政府系リフォーム団体から、コロナ禍でリフォーム業界では随分と業績を落としている会社が多く、今後の売り上げを立て直していくにあたり、チラシなどの販促による反響頼みでは先行きが見通せなくなっていることから、OB顧客からの売り上げを見込める方策を冊子にまとめたいとの依頼がその新聞社に入り、かれこれ10年近く全く販促をしていない私に白羽の矢が立って、取材を申し込まれたとのことでした。

やり方を聞いても意味はない。

F報道部長に、具体的にどのようなOB戦略、フォローアップをされているのですか?とやり方を聞かれましたが、そこで私が答えるのは、大して珍しくも無い、普通のことばかりです。一年に一度の巡回訪問メンテナンス、毎月のOB顧客向けのイベント、隔月のニュースレターの送付、そして、工事終了時のアンケートで100点満点の評価をもらえるような施工品質とコミュニケーションです。面白くも何とも無い話ばかりで、正直詰まらなさそうな感が否めない、といった風情のF報道部長に私が申し上げたのは、それらのLTV(ライフタイムバリュー)を引き受ける為の活動を支えているのは職人の正規雇用と研修、教育を連綿と行って、現場の意識改革を行っているからであり、現場での顧客接点強化ができていない会社が同じ事を行っても全く違う結果になる。と言う事でした。要するに、やり方では無く、あり方の問題なのです。

真の顧客接点はどこか?

建築業界、特にリフォーム業界で人事制度(賃金制度、等級制度、評価制度)を完全適法で明確にしている会社は未だに多く無く、さらにそれを大工などの職人にも当てはめて運用している会社は皆無といっても過言ではありません。殆どのリフォーム会社では、営業兼施工管理を行うスタッフが多くの現場を掛け持ちして、各現場は外注の手間請大工が半分取り仕切りことになってしまいます。それが悪いとは言いませんが、現場で顧客接点としての機能はほとんど果たせず、契約するまでは熱心にコミュニケーションを取るが、契約後の本来、本番であるはずの工事は最低限の約束さえ果たせればいいと、おざなりになってしまうのは想像に難くありません。建築業の真の顧客接点は現場でのモノづくりであり、工事を終えて引き渡した後の暮らしそのものであるはずが、その部分を担保する人材の育成を殆どのリフォーム会社は行っておられません。

幻のストックビジネス

リフォーム事業はストックビジネスであるべき論は昔から根強く語られています。ストックビジネスとは即ち、接点を持った顧客のLTVを引き受けることによって、年数を重ねるごとに事業は安定するという意味であり、リピート、紹介で売り上げを立てられる状態を作る事を指しています。ストックビジネスのモデルを作るには、初めて工事を行った顧客に満足してもらえるのが大前提であり、その上で長年にわたりフォローを続けて信頼関係を固く築いていくしかありません。やることは至って簡単ですが、出来ていない会社が圧倒的に多いのは、厳しく言っちゃうと、目の前の収益を上げる事に囚われて、未来に目を向けていないからだと言わざるを得ません。

未来への投資なくして未来なし

そして、その未来への投資として最も分かりやすいのが職人の正規雇用と若者の育成です。リフォームの現場で顧客満足を高めるには、担当者が現場に付きっ切りで施工するに越したことはありません。ならば、施工管理も出来る職人を育てるべきですし、私達が若い頃の大工さんは設計から営業、施工管理まで全て普通に行っていましたし、私自身もそうでした。細分化した木工事、内装下地工事だけを安い賃金でやってくれる大工を重宝がるのではなく、経営者と同じ感覚を持って、事業所の理念を理解した棟梁を育てるべきだと思うのです。ただ、長年、言われたことだけ、図面に書かれたことだけをやっていれば良いとの考えで大工として働いてきた者に、顧客の窓口や現場の全体的な段取りをやれと言っても、簡単には出来ません。凝り固まった考えの大工の意識改革を小なうよりも、新卒の大工見習いを雇用して、将来へのキャリアプランを示した上で教育をすべきです。

企業は人なり、建築は現場なり。

大工の正規雇用、大工見習いの採用、OB顧客へのフォロー、どれも目先の売り上げには繋がりませんが、未来を見据えた時、欠かす事が出来ないものばかり。そこに経営資源を投下するか否かはやり方の問題ではなく、在り方だと思っています。確かに、コロナ禍の先行き不透明な今の時代、未来のことどころでは無いと思う気持ちも分からなくはありませんし、私とて10年後の自社の存続に確固たる自信があるわけではありません。しかし、だからと言って、未来から目を背けても良いわけは無く、未来を食いつぶす選択は必ずそのツケを支払う事になるのも自明の理。勇気と決意と覚悟を持って、足元と行く先の両方を支える判断を行うしか無いと思っています。そんなこんなで、F報道部長には一般社団法人職人起業塾が関西で行っている職人育成のための人事制度のWSの内容をお伝えしておきました。リフォーム業界に少しでも、「企業は人なり、建築は現場なり」の原理原則から事業を組み立てる事業所が増えてくれる事を心から願っています。


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