日別アーカイブ: 2020年10月17日

職人・工務店の役割と責任とやり甲斐。#つむぎコラム

枝豆の季節到来

観測史上最高を更新し、彼岸に咲くはずの曼珠沙華の開花を大きく遅らせる程、暑く長かった夏がようやく終わり、朝夕は肌寒いくらいに気温も下がり始めました。一雨ごとに秋の深まりを感じる今日この頃、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか?先日、丹波篠山の取引先からすっかり毎年恒例の秋の風物詩の代表格となった黒豆(枝豆)を送ってもらい、私も本格的に秋の訪れを実感しました。大地の恵みが実り、スポーツにも読書にも持ってこいの最高の季節を楽しみたいと思います。ふと気づけば今年も残すところふた月、日本だけでなく世界中でこれまでの常識が覆る大きな変化の年になりました。人類の歴史は感染症との戦いの歴史でもあると言われますが、グローバリズムと情報化革命が進んだ現代における感染症の影響は、これまでとは桁が違う大きなものになることを知らされました。新型コロナが収まったとしても、インフルエンザは毎年のように新種が発見されることを考えれば、今後も同じ事が繰り返されることは想像に難くなく、世界は変わったことを認識し、適応しなければならないと覚悟を決めさせられました。

今年も起こった豪雨災害

今年の夏も記録的な暑さになりましたが、暑い夏ほど厳しい豪雨や台風が発生するもの。今年も豪雨災害が起こってしまいました。大きな被害にあった熊本県八代市は私が主宰している塾の塾生が在籍している事業所がある縁が深い場所でもあり、球磨川の氾濫被害の報道には胸を痛めました。自分に何か少しでも力になれる事はないか、と思い悩んでいたところ、私が理事を務めている全国工務店協会を通じて、「熊本の応急仮設住宅現場が間に合わない、応援の大工を派遣してもらえないか?」との依頼があり、即答で4名の大工スタッフの派遣を決めて、直ぐに出発してもらいました。9月の終わりには私も九州出張に合わせて応急仮説住宅の現場に陣中見舞いに行きました。現場ではまとめ役の旧知の工務店経営者にご案内頂き、総数800戸近くの応急仮設住宅(とはいえ建設型なので基礎もある高断熱木造住宅)を7月の水害からたった2ヶ月近くの短期間で10月の初旬には全て完工させるという、常識では考えられないスピードで進められた今回のプロジェクトの経緯を聞かせてもらいました。熊本震災の時から始まった、応急仮設住宅を劣悪な住環境の軽量鉄骨のプレファブ住宅から高い居住性を備えた木造住宅にシフトしようというムーブメントは全国に広がりを見せており、私が所属する京阪神木造住宅協議会でも兵庫県との災害協定を結んでいます。万が一、関西が被災地となった場合には今回の熊本と同じように私達も即断即決で仮設住宅の建設に取り掛からなければならない立場にあり、今回非常に良い勉強をさせて頂きました。

目的共有と全体勝利

7月4日に豪雨災害が発生、その後わずか2週間後には敷地を確保して地縄を貼り、9月末を目標に800個近い仮設住宅を全て木造で建てた今回のプロジェクト。その中でも、最大の規模を誇るのが本日私が訪れた球磨村総合運動場での113戸の工事です。コロナの影響もまだ強く、県外をまたいでのボランティアも制限されていた中、10月5日の完了検査で全てを完成させるところまでこぎつけられた圧倒的な施工能力には驚かされるばかりでした。灼熱の炎天下の下、基礎工事からつきっきりで現場で指揮を揮ってこられた友人の経営者は、真っ黒に日焼けして、ずいぶん精悍な雰囲気の現場仕事人の風情に変わっておられ、今回、このプロジェクトをなんとか成功裏に導けたのは熊本地震のときの経験から、集まった職方をグループ分けするのではなく、全体勝利を目指すと言う考え方を持って、臨機応変に配置を変えてもらったこと、そして、朝礼で「何のために我々は仮設工事を行っているのか、その意義は何か?」と地域を守る工務店、大工の責任と在り方、そして目的を繰り返し熱い口調で語り続けて職方の理解を得たことが大きいと語っておられたのは特に印象的でした。

誇りを持てる仕事

私自身、阪神淡路大震災の後は、職人として仮設住宅の工事に従事しました。それはすべて大手プレハブメーカーの下請け職人としてで、冬が寒く、夏は暑い簡易な仮設住宅を建てる作業を、非常時だからしょうがないと思いながらも、あまり意味も意義も考えずに、淡々と決められた作業を進めていた覚えがあります。それに比べ今回の八代豪雨災害での応急仮設工事はすべて木造住宅で、全建連と地元の工務店が連携を取り「地域の安心と安全を守るのは我々の役目だ」との使命感を持って取り組まれており、従前のおざなりなプレハブ住宅とは全く価値が違うと感じました。どんな建物を建てても結局、工事するのは職人であり、作り手が誇りを持てるような建物を作るこで、スピードも質も大きく左右される、実際の現場を見て深く感動させられました。このお便りが皆様のお手元に届く頃には工事は全て完成し豪雨災害に遭った方々が避難所とは比べ物にならない快適な暮らしを取り戻しておられるはずです。私達も微力ながらお手伝いさせて頂けた事を嬉しく思いますし、同時にこれは決して他人事でなく、覚悟を持って準備しておかなければならないとも思いました。そして、これ以上気候変動が激しくならないようにするには、一人一人の環境に対する意識が大事なのだと思います。最近すっかり下火になっているエコ活動、再度取り組むべきだと感じた次第です。

高橋拝