令和2年11月12日 快晴
都城へ工場見学。
久しぶりに朝一番のフライトで鹿児島に飛びました。相変わらず夜明け前から起きだして自宅を飛び出して、鹿児島経由で特急霧島に乗って昼前には生まれて初めての宮崎県の都城駅前に到着しました。朝起きすると日本は狭い、北海道だろうが九州の南端だろうが少々アクセス悪いところでも午前中に移動できるのは本当にありがたいと文明の利器に感謝することしきりでした。今回、都城を訪れたのは塗り壁材メーカーの高千穂シラス社の会社訪問が目的で、シラスと呼ばれる火山の噴火の際の火砕流が固まり堆積した土の採掘場と完全自然素材を売り物にされている塗り壁材の生産工場の見学でした。現在、私が担当している若手大工の育成講座を主催されているJBN傘下の福岡の団体「人にやさしい家を考える会」の事務局を務められている株式会社徳永産業さんのイベントにお誘いいただき、ちょうど久留米での講座の前日に日程を設定して貰えたのを良いことに参加させて頂きました。
高意匠、高性能、高単価の壁材。
高千穂シラス社といえばメンテナンスフリーの外壁材、そとん壁が有名で、掻き落としや櫛引、抑えなど、左官の技能で様々な表情のデザインを生み出せることから、デザイン事務所や工務店のモデルハウスなどでもよく採用されています。弊社でもこれまで何度も採用仕掛けましたが、結果的に未だ採用実績がありません。カタログや展示会での説明を聞くと、自然素材の力を最大限に引き出し、防水、調湿、化学物質の分解など優れた性能を示されており、デザイン性だけではなく機能面も優れていることは私も認識しておりました。しかし、今ひとつ踏み切れて無かったのは、新しい商品にすぐに飛びつくのに慎重になっているのもありますが、同業他社の同じような商品と比して、若干、費用面でコストが上がるのが大きな理由であるのは間違いありません。今回の訪問はその辺りのわだかまりというか、疑念?が晴れたら良いなと思い参加させて頂いた次第です。
大地の圧倒的な力。
都城駅前で集合し、地元の有名行列店で意外にあっさりしたラーメンをご馳走になった後、昼一番から高千穂シラスの採掘場へと向かいました。Wikipediaによると、阿蘇カルデラ(あそカルデラ)阿蘇山。現在も活発な中央火口丘を持っている。直径は約25×18kmであり、カルデラ内に多くの人が住み鉄道や道路が走っている。阿蘇カルデラの大噴火は調査によれば4回あったと推定されるが、一番、大きかったのは9万年前に発生した4回目の噴火である。このときの総噴出量は富士山の山体体積を上回る600km3に達し、火砕流は九州の半分近くを覆い尽くし、火山灰は日本全国に降下した。宮崎県の高千穂峡谷はこのときの火砕流堆積物(溶結凝灰岩)を河川が侵食したものである。
とのことで、シラスとは即ち、この火砕流が堆積して出来た地層であり、大地の力の結晶です。ちなみに、この噴火で九州全域の縄文文化は壊滅的な打撃を受けたらしく、悠久の歴史というか大地の力の片鱗を見せられた気がしました。
徹底的なローテク工場の理由。
そんな採石場から採取されたシラスはビニールハウスの乾燥場でトラクターで引っ張るレイキで攪拌、、太陽光で乾かされるというローテクな工程を経て、篩にかけられて粒度を揃えられてから工場で加工されます。この工場がまた、昭和かよ、とつい口に出てしまいそうなくらいのローテクぶりで、、左官職人が使うドラム式のミキサーを回して一袋ずつ丁寧に袋詰めされていました。更に驚いたのは、主力製品であり、同社のフラッグシップでもあるそとん壁の生産は工場ではなく、すべて近隣の農家さんに兼業で委託されているとのことで、高齢化して限界集落になりつつある都城の農村に雇用と仕事を創出しているとの事でした。見学に伺った先の農家さんでも、元は牛小屋だった風の小屋で工場から出荷された原材料をミックスして製品を作られており、その袋に生産者の名前が印字されているなど、誇りと自信を持って高千穂シラス社の製品づくりに携わっておられるのがよくわかりました。
新二毛作。
生産効率、利益追及を考えれば、設備投資を行って、大きな機械を入れれば、きっと、もっと価格競争力も増すことができるし、事業規模も拡大できると思います。大概の経営者ならば、商品がそこそこ売れ出したらそうしようとしますし、その方が当然の選択だと思ってしまいそうですが、高千穂シラス社はあえてその道を選択することなく、徹底的なローテクで利潤を地元に還元する仕組みを構築されています。また、この地が出身地だと言われる経営者の、のどかで美しい風景を守りたいとの想いもあって大きな工場に拡張するのをやめたとのエピソードも案内してくれた社員さんが誇らしげに話されていました。もちろん、商品の事も学ばせて貰い、高い防水性、多孔質物質による消臭効果、水は通さないが空気を通す抜群の通気性能を誇るなど、なるほどと性能の良さにも大きく感心はしましたが、そんなことよりも「新二毛作」と名ずけられた農家さんとコラボしての生産体制の仕組みの方がずっと心を打たれました。その志や潔し。です。
大切なのは目に見えない価値。
ちなみに、同社は採掘場からもう少し山に分け入った自然豊かな中腹に分譲住宅用の宅地開発もされておられました。「収入付き分譲宅地」と命名されたその土地は、入居した方がそとん壁の袋詰めや、すぐ近くで同社が運営している牧場の世話をするなどの仕事がセットでついており、元気に働きながら気持ちのいい森の中で暮らすことができる画期的な素晴らしいプランの分譲地となっておりました。そこにはそとん壁の開発にも関わられた建築家の伊礼智先生が設計された物件もありましたが、既に売却済で、関東からの移住者が二組ほど住まれているとの事、美しい森の風景と相まって私としてはなんだか理想郷を見せられたような印象を受けました。とにかく、株式会社高千穂シラス社の目指す方向性や現時点での姿勢や方向性に大いに共感すると共に感銘を受けて、今後は是非共、特に外壁仕上げ材で同社の材を積極的に採用して行きたいと心に刻み込みました。人の心を動かすのは目に見えるものよりも目に見えないもの。その真理を体感させられる工場見学ツアーとなりました。素晴らしい機会を与えて下さった株式会社徳永産業さんには心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
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